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>>3 > コーヒーから立ち上る白い湯気。 店員が中身の減ったカップへ注ぎ足し、去っていった。 馴染みとなった俺のアパートから一番近い喫茶店… テーブルの向かいに俯いて座る明里。 一週間、連絡つかずだった彼女にメールで呼び出されたのだが、 ここに来て挨拶以外、互いに言葉を交わすことなく無言のままでいた。 あの夜の出来事について…だ。 言い出しづらいのだ。 部屋の中に突然現れた十年前に付き合っていた彼女の事を あの夜に明里へ語って聞かせた。 何もかも…再会してあの部屋で彼女と一夜を過ごしたことも。 再会した時は十年前と変わらぬ姿をしていたのに… 惨たらしく傷つけられた相貌… 脳まで達していただろう瞼の上から打ち込まれた釘… 削がれた耳と太い糸で縫いつけられた口… 「彼女はもう、死んでいるということなのか?」 幽霊…いままで存在を信じたことがなかったが…考えたこともなかったが… あの夜に見たのは…いや、再会した時点で彼女はすでに… そういった類のモノになっていたのだろうか… 「…生きて、いると思うよ…」 ”やっぱり…この部屋に女の匂いがすると思ってたんだ…” と言う女の声を明里はあの夜に聞いたそうだ。 京ちゃんがわたしと付き合っている時も他の女の匂いがしていた…とも。 「たぶん、目も耳も口も必要が無くなったのだと思う…」 見ることも聞くことも喋ることも…それは死んでいると暗に言っている事じゃないか。 明里は違う違うと頭を振った。 「彼女を探すのはやめてあげて。 男性と違って女には過去なんてないの…今があるだけ…」 明里はそう言うと、目から溢れた涙をハンカチで拭う。 他に何を聞いたか…知らされたか…これ以上、明里は語らなかった。 すすり泣く明里から、俺は窓の外へ目を向ける。 葉を落とした木々が鉛色の空の下、今日も風に吹かれて寒そうにしていた。 (了)
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