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>>48 > … 数分後、俺と夏美は海岸沿いの砂浜に並んで立っていた。 「 …波、すごいね…」 「 ああ、近くで見るとすげーな!」 『 本日は高波のため、遊泳禁止となっております… 繰り返します… 本日は… 』 丸太に括り付けられたスピーカーから、無機質な声が風に乗って聞こえてくる。 ザザーーー… ザザーーー… 俺達よりも遥かに高い波が幾度も打ち寄せては、また引いてゆく。 ビュオーーー!!… ザザーーー… 「 あっ!!」 強い風に煽られて夏美が被る白くツバの広い帽子が飛ばされ、うねる波の中へと消えていった。 ビュオーーー!!… 「 お、おいヤバイだろ、あれ母ちゃんに貰ったやつだろ!!」 ビュオーーーおえおオうー!!… 「 …ちょっと兄貴静かにして!」 「 えっ?」 ビュオーーおえおえオあオお!!… 「 なんか風の音とは別に変な声みたいなの聞こえない?」 確かによく風の音を聞いてみると風の音に混じって呻き声の様なものが… しかも一人ではなく、大勢の人間が一斉に呻いているように聞こえる。 ビュおおおえおおオオおおおおオオおおおおオオおおえあおオオおおおおオオおおおおオオおおおおオオおえおお!!! 「 ひっ!!」 「 あ、兄貴あれ!!」 夏美が指さしたのは俺達が泊まっているあの民宿みさき荘だった。 「 えっ、何だ?何があるんだ?」 目の悪い俺はオデコに掛けていた眼鏡をかけて、先程俺達が覗いていた二階の部屋を見た。 すると窓越しに真っ白な服を着た髪の長い女が此方をジッと見つめていた。 「 だ、誰だよあれ?か、母ちゃんかな?」 「 違う…お母さんあんなに髪の毛長くないもん、兄貴、あの人の事あんまり長く見ない方がいいよ…」 「 じゃ、じゃああれ誰だよ?なんで俺達の部屋にあんな女がいるんだ?もしかして旅館の人かな?」 「 だから違うって!!」 ビュオーーーおえおオオおおおおオオおおおおオオおえおお!!! 「 うわああ!!何だお前?!」 再度、強い突風が吹き、慌てて夏美の手を掴もうとした時にそいつは後ろに立っていた。 腰まで伸ばしたびしょ濡れの長い黒髪。ビッタリと体に貼りつく白いワンピースを着た女。 顔は生気の無い土色、目は窪み、口は欠伸をした時の様に大きく開かれていた。 「 うわあああああ!!」 ザザーーー!!… 「 きゃあ!!」 次の瞬間、夏美は人形の様にパタリと倒れそのまま一瞬で波の中へと引き摺られて行った。波から伸びてきた幾つもの長い「手」によって… 「 夏美ーー!!!」 俺は慌ててTシャツを脱ぐと、パンツ一丁で荒れる海の中へと飛び込んだ。 「 どこだ?!どこだ夏美ーー!!」 泳ぎにはかなりの自信があった方だが、自然が作りだす大きな力の前には全く歯が立つ筈も無い。何度も波を被り大量の塩水を飲んで噎せて涙が止まらなかった。 ものの数分で体力を奪われた俺は、兎に角力の続く限り夏美の名前を叫び続けた。 「 ……に…きぃ…… 」 「 !!!」 もうダメだと諦めかけた時、微かに夏美の声が聞こえた。 「 どこだ?!どこにいるんだ夏美ーー!!」 辺りを見回していると漸く波の隙間に夏美の姿を捉えた。 既に波と塩水のせいで殆ど目は開いていないが、最後の力を振り絞って夏美の元まで必死で泳いだ。もうそれがクロールなのか、平泳ぎなのか、犬掻きなのか分からない無茶苦茶な泳ぎ方だったと思う。 何度も波に押し流されそうになりながらも、あと少しで夏美に届く所まで来た。どうやら夏美は遊泳許可区域を示す丸いブイに掴まっているようだった。 夏美も必死なのか、顔を顰めながら必死でそれにしがみ付いている。 だが夏美を抱き締めた時にその黒いブイの異変に気付いた。 「 …な、夏美… お前それ、何にしがみ付いてんだ…?」 「 ………… 」 どう見てもそれは人間の頭だった。 夏美の二の腕にまで巻き付いた長い黒髪は先程のあの女である事は間違いなく、ゆっくりと此方を振り返った女の窪んだ目をみた瞬間、天地が逆転した感覚に襲われ、そのまま俺の意識は飛んでしまった… … … わん!わん!わん!フガ… わん!わん!わん!フガ… 「 …ん…? ま、マモル…?」 「 良かった!兄貴目ぇ醒ましたよお父さん!!」 「 お、本当か美菜!チッ、このガキャ心配させやがって!!」 ガツン!!! 海岸で目を醒ました瞬間、親父の硬いゲンコツによりまたも意識を失った。 … 「 …ん…?」 再度目を醒ましたのは夜の七時を回った頃だった。 ズキズキと痛む頭を押さえながら隣りの部屋を覗くと、俺以外の全員 (マモル含む) が夕食を食べながらテレビを見て笑っていた。 「 えっ、夏美!おい、お前大丈夫なのか?!」 「 …………?」 俺は布団から飛び出し、呑気に焼き魚を食っている夏美にしがみ付いた。 ドグッ!! 「 痛っ!!(´Д` )/ 」 重い肘を腹に貰った。 「 やめてよ気持ち悪いわね!大丈夫って何よ?それはこっちの台詞じゃないバカ兄貴!!」 「 …へ?」 そろそろ書くのにも疲れてきたので、夏美がいう事をザッと要約するとこうだ。 まず、海岸に夏美は行っておらず、親父と母ちゃんの後について風呂へ行っていた。 三人で部屋に帰って来ると俺の姿がなく、マモルが窓際でクルクル回りながら外を見ろというので見たら俺が一人で砂浜を歩いており、波に呑み込まれるのが見えた。 昔、ライフセーバーの経験がある親父がすぐ海に入り俺を助けた。 親父が追い付いた時、俺はブイに捕まり既に意識を無くしていた。 と、まあこういう事らしい。 「 マモルに感謝しとけよロビン!助けんのが後もう少し遅れていたらお前は完全にサメの餌になってたんだ!わははは!」 酒の弱い親父が熱燗で赤くなった顔を崩して下品に笑っている。 マモルを見ると、テレビを見ながらまるで「気にすんな」とでもいいたげに尻尾だけをクルクルと回している… なんか納得いかない いや、全然納得いかない もしかすると俺は頭がおかしくなってしまったのだろうか? あの時確かに夏美は俺と一緒にいた。砂浜に立ち、一緒にあの女も見た筈だ。 しかしあんな目に会った筈なのに、夏美は今何事も無かったかの様にマモルの背中に顔を押し当ててモフモフしている。 「 やはり俺が間違っているのか…」 これ以上考えると腹が立って来そうなので、もう考えるのはよそう。 「 大体こんな薄汚い、気持ち悪い民宿なんかに泊まるからこうなるんだよ…ブツブツ…」 地獄耳の親父がピクリと反応した。 ぐぅ〜 腹が鳴った。 気持ちを切り替えて俺も晩飯に参加しようと立ち上がった時に口の中に違和感があった。奥歯に何かが詰まっている感覚。 なんだ? 人差し指と親指でそれを摘み、ゆっくりとそれを引き出す。 「 ぎゃーーーーーー!!!」 俺は本日三度目の気絶をし、翌朝チェックアウトの時間まで一度も目を醒ます事は無かった。 【了】
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