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>>1 > 「お兄ちゃん?」 声をかけられるまで寝ていたのか、呆けていたか… 気が付けば目の前に女性が二人。 一人はユズキ、俺の妹で、その背へ隠れるようにして立つのは 彼女の高校時代からの友人で…黒髪ロングに眼鏡が似合う理知的な美人。 グレイッシュピンクのトレンチコートに身を包んだ… 厚着していても分かるぐらいでかい…アレ…あ… 「雪輪屋さん、久しぶり…」 特徴ある部位で彼女を記憶していたから、名前を思い出すのに時間がかかってしまった。 こんな遅い時刻に二人でどうしたんだと訊ねると… 会社帰りに待ち合わせをして友達数人と飲んでいたそうだ。 「サーちゃんは今夜、私のお部屋にお泊りするんだ♪ 一緒にお風呂に入って、一緒のお布団で寝るんだよ♪」 「高校の時から、本当に仲良いんだな。 お前が今度、引越したアパートは●●沿線だっけな…隣のホームか」 「そうそう♪それでね、 サーちゃんが反対側のホームから、眼鏡かけても0.7の中型免許ギリギリの視力で、 視覚障害者誘導用ブロックから先へ行きたそうな雰囲気を醸した、 お兄ちゃんそっくりな男性がベンチに座っているのを見つけて、 本人だったら賠償金の支払い大変だからどうしようって、心配になって来てみたんだ」 「それはわざわざ申し訳なかったな。 でも、大丈夫だ。 お兄ちゃん、列車に飛び込まなくちゃならん程は追い込まれていないから」 「いや、お兄ちゃんは一度、とことんまで追い込まれてみることをお薦めするよ! それで四門を開いたり、スーパーサイヤ人になったり、1000−7の答えを言わせたり、 そんな、新たなお兄ちゃんに生まれ変わるべきだと私は思うよ♪」 妹うぜぇ…残念な方向へ出来上がってるユズキと対照的に、 微塵の酔いも感じさせない白い肌の雪輪屋さんが、黒い瞳で心配そうに俺を見つめている。 「疲れているだけだから」 「過度の疲労は大変危険です。慢性疲労症候群等、精神疾患となる恐れがあります。 精神面では集中力や思考力の低下、記憶力低下、活力低下、気力の易疲労性、 意欲や意志の減弱、興味喪失、また身体面の症状としては困難感、弱々しさ、筋力低下、 アレルギー発症、喚語に滑舌困難…呼吸困難を引き起こすこともあります。」 「雪輪屋さん、もしかして…すごく酔ってる?」 「いえ、私はたいして飲んでないので…それに、 ええと…その、お兄さん…こんなことを言うと…変に思われて…しまう…のですが… このまま…ここにいると…かなり危ない…です。」 人見知りをする子で、俺の実家へ遊びに来てた頃もこんな感じだったが… なんだ、ここにいると危ないって? 「駅のホームは…人が乗り降りする…場所…ですけど… 亡者や異形が…出口を求めてやってくる場所…でもあるのです。 そして、死の淵に立って彼岸を眺めている人間を見つけると… 仲間に引き込もうとホームの上にまで、這い上がってきてしまうのです。」 死の淵?彼岸?亡者?異形?出口?這い上がる!? 雪輪屋さんの言っている意味が理解できない…理解できないのだが… なんだか背中が寒気を覚えてゾクゾクしてきた。 鳥肌まで立ってきたじゃないか。 「ここ…結界になってます。 たぶん、電車が出て行った後、客扱終了合図後から干渉が始まったのだと思います。 駅員さん達も他の利用客も…入って来れないように…このホームが存在すること… 人の関心から外されてしまっています。 ユズキも最初、お兄さんどころか…ホームを見つけることが出来ませんでした。」 俺は周囲を見廻した。三人以外…ホームには誰もいない。 確かに、今夜はかなりおかしい。 次が終電だ…待合室で暖をとっていた客達だって、そろそろ階段を下りてきても良い時間だろう… それが、全く誰もやって来る気配がない。 彼女の言う通り、誰からも…このホームが見えていないのだろうか… 「月の出ない夜…ホームの端から先は、一歩踏み出せば底知れぬ深い闇となっています。 夜の海と同じ、港…桟橋の下…そこは生者以外が統べる見知らぬ世界…」 なんか…だんだん、饒舌になってないか雪輪屋さん。 ユズキは俺の手から缶コーヒーを奪って「トレースオン!」とか馬鹿なことを曰っている。 「で、なんでこのホームなんだ?」 「疲れ果ててるお兄ちゃんがいるからだよ♪」 「線路は鉄道車両が走行する軌道… それは永遠に交わらぬ、 鋼鉄のレール二本で作られています。 五行思想にいう金気とは金属…青銅、鉄、鋼… 古来より、魑魅魍魎や幽霊の類が嫌うものとされてきました。 この鋼鉄製のレールがホームへ彼らを引き寄せる因となっているのです。 鉄道事故で亡くなられた方…それも、二本のレールの間で命を落とされた方が残した… 未練や遺恨、怨嗟、憎悪は金気に弾かれ…弾かれている内に練られ…凝り固まり… 猖獗して、 生前の…断末魔の姿を象った悪霊と成り果てます。 車の行き交う道路であれば思うまま…周囲に拡散することができるのですが、 鋼で出来た二本のレールが邪魔をして外へ出ることを許してくれません。 悪霊は自然、電車と同じ軌道に沿って彷徨する事となります。 駅のホームはレールとの高低差によって…世界を分け、彼らの侵入を防ぐことができます。 しかし、新月の晩…闇が満ちてホームとの高低差が埋まる…その時にのみ、 人の住処側へ抜け出すことが出来るようになるのです。」 雪輪屋さん、済まない…俺にはあんたが言ってる話の意味がほとんどわからん。 このホームに異常が起きていることと…ここにこのままいてはいけないと言う事くらいしか… 「レールの外へ出たいと執念が残っているものは…まだ、良いのですが… 鉄道で自殺される方のほとんどは凝り固まった怨みで出来上がった存在なので…」 感情が感じられない…どこかにあるカンペを読んでいるような…彼女の声… なのに、整った白い相貌は…口の端が軽く吊り上がり…眼鏡の奥では目が細められる… ゾッとするような笑みを象っていた。 「ひぃふぅみぃよぉ…」
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