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>>1 > 事は1ヶ月前に遡る。 ありかちゃんは「お一人様ゲーセン」の帰りに、近道をしようと中央公園に入った。 時間は19時過ぎだったが、季節柄既に暗い。 この辺りでは大きめのその公園は、面積の割に街灯が極端に少なく、昼間はいいが陽が落ちてからは危ないことで有名だった。 実際、レイプ事件もニュースになったくらいだ。 噂だけならほかにもよく耳にするし、明るみに出ていない事件もないとは限らない。 …うん、六佑が何か言いたそうにしているが、言葉になっていないな。 今は耐えるのだ。俺からも後で彼女には説教がある。 兎も角、公園を横切ることにしたありかちゃんは、両側に背の高い木々がこんもり繁っているこれまた特に危険そうな遊歩道を足早に歩いていた。 足早だったのは怖かったからじゃない。見たいアニメがあったからだ。 足早なだけでなく、集中もしていた。 袋にも入れずてんこもり抱えたUFOキャッチャーの戦利品を落とさないように。 だから、気付くのが遅れたのかもしれない。 いつの間にか、背後数メートルの距離に何かがいた。 微かに音が聞こえるのだ。 ぺちっ、ぺちっ、ずっ、ずっ ぺちっ、ぺちっ、ずっ、ずっ 何の音だろう。変質者にしても妙だ。 振り向く。 …誰もいない。いや、いた。 辛うじてシルエットのわかる位置に猫くらいの大きさの何かがいて、それが動く度に奇妙な音が鳴っていたのだ。 ぺちっ、ぺちっ、ずっ、ずっ それは明らかに、こちらに向かって来ようとしていた。 猫ではない。 猫はあんな音は立てないし、動きもなんだかおかしい。 ぺちっ、ぺちっ、ずっ、ずっ 小さい所為かあっという間に近付きはしないが、案外速く見える。 ありかちゃんが止まってしまった今、それとの距離は確実に縮まっていた。 「なんだ。私に何か用なのか」 止せばいいのに、律儀に声をかけるありかちゃん。 その優しさが彼女の欠点であり美点であり、大抵の面倒事の引き金だ。 影が、街灯の下に姿を現す。 「あぅ、あー」 髪の伸びていない、丸っこい頭。 道路を這いずって、傷だらけになった腕。 音の主は赤ん坊だった。 ありかちゃんの腕から、小さなひよこのマスコットが転がり落ちる。 赤ん坊は、にま、と笑って消えた。 「それから生理が来てない」 ありかちゃんが真顔で言い放った。 2、3日中には来るはずだった月のモノが遅れ、今日に至るという。 「いつもの霊障じゃねぇか…」 俺の隣で、六佑がげっそりとしている。 そう、いつもの、だ。 ありかちゃんは何と言うか、非常に「憑かれ」やすい体質なのだった。 「ていうと何かな、ありかくん。つまり、赤ん坊オンリーが寄ってきて自らお腹に入っちゃった処女懐胎だと。相手の男などいないと、そういうことだね?」 俺が確認すると、ありかちゃんは心底おかしそうにケラケラと笑った。 「あはは、私に男なんている訳ないだろう。要らないし」 六佑ドンマイ。 さて、ほかの女の子なら、レイプという現実から逃避するために本当は起きていない心霊現象を脳内で作り上げてしまった可能性も考慮に入れるところだ。 だけどまあ…ありかちゃんならその心配は必要ないかな… 「でもね、暗くなってからあの公園はもう通らないように。ありかちゃんが男に興味なくても、襲われる可能性は十分あるんだから」 「…?」 おいそこ、きょとんとするんじゃない。 六佑がこっそり溜息を吐いた。全くもって同感である。 「で、どうする?六佑」 「今日の19時、中央公園」 「もたもたしてて、万が一産まれたり?しても困るしなあ…」 彼氏がいる疑惑も乱暴された疑惑も晴れたとは言え、霊の障りを放置する道理はない。 「おお、それは有り難い」 ありかちゃんが快諾して、そういうことになった。 ここから先は六佑の出番である。
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