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>>1 > 腹を痛めて産んだ我が子を、酷い仕打ちの末に死に至らしめる母親がいる。 今回、「最低はじめました同好会」を発足して記念すべき第一回目に訪れたこの廃屋は、過去に内縁の夫と共に幼い子供2人を餓死させた鬼畜が住んでいたという、曰く付きの物件である。 「我がの都合で食事もマトモに与えないとか何考えてんだろうな?」 この情報を仕入れてきた舎弟の龍が、ドアを破壊しながらぷりぷりと怒っている。 ここは二階建てのどこにでもあるような一般サイズの分譲住宅だが、裏手は墓地。隣りは沼。反対側は森といった立地条件で、街頭の類いも少ないせいか、薄暗くて何とも言えない雰囲気が不気味である。 もう既に怖い。 バールで器用にドアをヒッペ返した龍は、付いて来いよと言わんばかりにズカズカと玄関から土足で上がっていった。 いつもはビビりな癖にどうも様子がおかしい、龍はもう既に取り憑かれているのかも知れない。 龍←翔吾←俺←猛(デブ) この順番で廊下を進む。 途中、二階へ上がる階段があったが、それをスルーして正面のキッチンへと向かう。 子供達の遺体が発見されたのはキッチンの床下収納庫の中からだったらしい。 「ねえ、今の見た?」 猛が後ろから俺の服を引っ張ってきた。 「階段の上に誰か立ってたんだけど」 ふと背中に冷水をかけられた様な寒気がして振り返ると、猛の肩越しからくたびれた中年女性の顔が覗いていた。 泣いているような悲しい表情だった。 だが、それは見間違いかと思える程の一瞬の出来事で、あっという間に暗闇の中にかき消えてしまった。 「大丈夫だよ猛、見間違いだ。怖い怖いと思ってるからカーテンか何かがそう見えただけだろ」 猛を安心させる。 俺も馬鹿じゃない。余りの怖さに少し吐きそうだが、ここで騒げば全員がパニックになる事は分かっている。 そうなれば相手の思うツボだ。 慌てるな俺!こっちは4人もいるんだ、最悪、猛か龍を囮にして逃げればいい! キッチンの床はヌルヌルと滑り、家具という家具はひっくり返り、破壊されていた。 「うおらあああ!!」 何かに取り憑かれたように、それらをバールで打ち除けながら床下収納庫を探し回る龍。 その異常な暴れっぷりがなんか怖い。 「うわあああ!!」 翔吾が悲鳴を上げた。 翔吾は俺にしがみつきながら「猫が!猫が!」と繰り返している。 話によると、龍が蹴り飛ばしたテーブルの下から黒い猫が飛びかかってきたらしい。 ビビらせんじゃねえよ!とスマホのライトを翔吾の顔に当てると、両方の目が真っ赤に充血している。どうやら嘘をついている訳ではなさそうだ。 そんな猫いたか?と辺りを見渡していると、龍が「兄貴!見つけた!」と声を上げた。 縦横1メートル程の木製の貯蔵庫。 空気が一気に重くなった。 龍が板の隙間にバールの先をねじ込んでいく。 ベキ ベキベキ バキン!! 大きな音がして蓋の一部が壊れた。 その隙間から龍が中を覗き込む。 「ぎゃあああああ!!!」 龍はバールを放り出して一目散に玄関に向かって走り出した。 それに釣られて俺たちも我先にと台所を飛び出し、狭い廊下を走りきり、建物の外へと逃げ出した。猛は玄関先で転んで泣いている。 帰りの車の中、いつもの調子に戻った龍が震えながら言った。 「目が合ったんだ、恐ろしく白い顔をしたガリガリのオカッパ頭の男の子と」 【了】
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