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>>3 > 次の次の次くらいの配達の時だったと思う。 私が例のアパートを訪れると、相原さんが待っていた。 「こんにちは、102号室の相原○○宛の郵便、あるかしら」 あった。 ここ数回は持ち帰っていたが、本人がいるのなら渡さない理由がない。 「あっ、こちらです……」 いつものようにありがとうと微笑んで、相原さんは102号室に帰っていった。 よりが戻った、ということなんだろうか? つい、ぼけっと考え込んでしまう。 相原さんはもういないと思っていたから、正直結構驚いていた。 「郵便?……チラシ?」 突然後ろから声を掛けられ、振り向くと、大学生くらい?の男性が立っていた。 「いえ!メール便です」 「神田宛のある?」 「何号室でしょうか」 「102」 「いえ…、ありませんね」 そう、とだけ言って、彼はスタスタ歩き出す。 私の横を通り過ぎ、部屋に行こうとしたわけだが、途中でふと何か思い出したように立ち止まってこちらを見た。 「ポストに書いてあると思うけど」 「はい?」 「神田宛以外の郵便来ても、入れないでね」 「あっ、はい。……えっ?えーと、どなたかご一緒にお住みになってたりは…」 「ないない。ひとり暮らし。前の住人宛かなんかだろ?相原ナントカ……やたら多いんだ」 絶句してしまった私に気づかないまま、神田さんは102号室の鍵を開けて、扉の向こうに消えた。 ついさっき、相原さんが帰って行った部屋の中に。 ポストを見ると、神田宛以外の郵便を拒否する貼り紙は以前のまま、その存在を主張していた。 次の月から、私たちアルバイトは神宮前○丁目の配達担当を外れた。 新しく、その地域を配達してくれる委託の人が現れたからだ。当然、私はそれ以来あのアパートには行っていない。 あの時、神田さんに相原さんのことを伝えるべきだったかなと思うこともある。 ただ咄嗟には言葉が見つからなかったし、部屋を訪ねたとして出てきた神田さんの後ろに相原さんがいてもいなくても、私は何と言っていいかわからなかっただろう。 配達員がチャイムを鳴らして商材を渡す行為も、原則禁止である。(トラブル回避のため) いずれにせよ、今となってはもうどうしようもなかった。 神田さんと相原さんは今もまだ、一緒に暮らしているのだろうか。あの102号室で。 (了)
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