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>>2 > サイレンが遠離ってゆく。 はっと気が付くと、由美は自転車に跨がり信号待ちをしているところだった。 強い西陽が射している。 (菜々と花菜は…!?) 場所はいつもの交差点。娘の姿は何処にもない。 前後の座席にも、見える限りの道路にも、歩道にも。 深呼吸して、もう一度辺りに視線を巡らせる。 よくよく見れば、自転車の前輪が向いているのは先程までの認識とは逆で、保育園の方角だ。 園を目指す自転車、娘のいないチャイルドシート、夕暮れ刻。 まさに今からお迎えにいくところーーそんな様子だった。 (私たち…救急車にひかれたんじゃなかったの…?) 体験したばかりの恐怖が、まざまざと蘇る。 衝撃も、痛みも、しっかりと感じたはずだったのに、身体を確認しても外傷どころか汚れひとつ見つからない。自転車も無傷だ。 大通りは常と変わらず流れていて、事故の痕跡など何もないように見える。 考えてみれば、救急車がスピードも落とさず横断歩道に進入してくるというのも妙な話だった。 それに、あの菜々の様子…。 (白昼夢…?嫌ね…) すっきりしないながらそう結論付けるも、やはり娘の顔を見るまでは落ち着かない。 由美は急いで保育園に向かった。 菜々と花菜は当然のように無事だった。 胸を撫で下ろすと同時に、由美の世界に現実感が戻ってくる。 最近、娘たちの扱いが少し雑になっていたかもしれない。 悪夢に戦いて、再確認した。この子たちが大切だと。 ふたりをぎゅっと抱き締め、由美はそっと涙を零した。 菜々が息苦しげに身を捩り、腕の中から逃げ出す。 「ママもカナも へんー!」 憎まれ口を叩きつつ通園鞄を取りに行く菜々を、由美は微笑ましい気持ちで見送った。 保育士の先生から、菜々が外遊び中に転けて膝を擦り剥いた報告だけ受けて、3人で家路につく。 帰りは救急車とすれ違うようなこともなかった。
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