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東京でOLやってるお姉ちゃんが、先輩のY子さんに聞いた話。 Y子さんには好きな人がいた。 お隣の部署のやり手イケメン、M弘さんだ。 M弘さんにはK美さんという直属の部下がいて、どうやら彼女もM弘さんのことが好きらしいという噂だった。 とは言え、付き合っている訳でもない。 Y子さんは気にせず猛アタックしてたんだって。 お昼に誘ったり、帰る時間を合わせたり、差し入れ持ってったり。 正直、K美さんは地味でぱっとしなかったし、負けるはずがないと思ってた。 相手が気弱なのをいいことに、会話に割って入ってそのままM弘さんを独り占めなんてこともしばしば。 嫌がらせという程酷く当たったつもりはなかったけれど、残業しているK美さんを横目に、よくふたり連れ立って退社したりしてた。 それこそ、「お夕飯何処で食べます〜?」とかなんとか、楽しげに会話しながら。 で、その日もY子さんはM弘さんと食事に行ったんだけど。 食後、駅でM弘さんと別れてから、会社に忘れ物をしたことに気が付いた。 無くても大して困らないものだ。 明日にしようかなと思いつつも結局取りに戻ることにしたのは、ふと残業中のK美さんの様子でも見てやろうという意地悪心が芽生えたからだった。 話題のパスタ屋さんにM弘さんと行ってきたの〜なんて話をして、優越感に浸るつもりだった。 会社に着くと、K美さんの部署のある部屋はやっぱりまだ電気が点いていた。 Y子さんは、驚かせるつもりでそっとドアに近づき、「あれ?」と立ち止まった。 キーボードを叩く音が聞こえない。 代わりに響いているのは、パチンパチンというホッチキスらしき音だ。 資料でも綴じてるんだろうか? K美さんは大体いつもパソコンとにらめっこしてるから、てっきり今日もそうだと思ったんだけど…。 こっそり室内を覗いてみる。 K美さんはこちらに背を向けて、自分の席に座ってた。 他の社員はもう帰ってしまっているようだ。 パチン、パチン。 さっきからずっと、止むことなく規則的に鳴り続けている音。 パチン、パチン。 K美さんはほとんど身体を動かしていない。 パチン、パチン、パチン、パチン、パチン、パチン、パチン、パチン、パチン、パチン、パチン、パチン、パチン、パチン、パチン、パチン。 ーーおかしい。 Y子さんは首を傾げた。 資料がそんなにあるとしても、一冊につき1〜2ヶ所ホッチキスで留めた後は、次の紙束を取って揃えるという動作が入るはずなのだ。 それなのに、K美さんの背中は動かない。 こちらから見える範囲では微動だにしていないと言っていい程で、明らかに「ホッチキスで留める」以外の動きはないように思えた。 パチン、パチン、パチン、パチン。 一冊の資料を必要以上に留める意味なんてあるだろうか? めくり難いし、備品の無駄だし、針が増える分ちょっと危ない。 パチン、パチン、パチン、パチン。 じゃあ、何故、何を、 K美さんは一心不乱にホッチキス留めしているんだろう。 パチン、パチン、パチン、パチン。 急にK美さんの行動に狂気じみたものを感じて、Y子さんは忘れ物も持たずに会社を飛び出した。 関わってはいけない。そんな気がして仕方なかった。
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