投稿記事
「それからさ〜、Y子先輩変わっちゃったらしくてね?あ、私が入社した時には既に暗かったんだけど。‘ちょっと前まで肉食女子!って感じだったのに’ってのは、先輩たちみんな言ってたな〜」 盆や正月でもないのに、土日を使って久々に実家に帰ってきたお姉ちゃんは、あたしにそんな話をしてケラケラと笑った。 チューハイがもう3缶は空いているから、酔っているのかな。 ホッチキスの一件以来、Y子さんは暗く地味に振る舞うようになったらしい。 逆に、誘われたことで自信をつけたのか明るくなったK美さんは、急速にM弘さんと親しくなり、恋人関係になってしまった。 今はもう別れているそうだが、お姉ちゃんもふたりが腕を組んで歩いているところを目撃している。 「Y子先輩が退社する時、私に言ったんだ。‘K美に気を付けろ’って。そんで、この話してくれたの」 らしくないショッキングピンクに塗った爪を眺めながら話すお姉ちゃんに、覚える違和感。 「どう?あんたから見て、私ってやっぱ変わっちゃった?」 答えはイエスだ。 少なくともあたしの知ってるお姉ちゃんは、人のことを‘暗い’だなんて表現しなかったし、‘あんた’なんて二人称も使わなかった。 人の不幸を笑い飛ばすようなこともなかったし、絶対今みたいに胡座なんてかかなかった。 あたしは何も答えなかったけれど、お姉ちゃんは「やっぱか」と呟いて、財布の中から取り出した何かをテーブルにそっと置いた。 「私今、K美先輩と好きな人かぶってんだよね〜。多分」 ホッチキスの針の塊がひとつ。 K美さんは今頃、お姉ちゃんが毎日愛飲していた紅茶でも嗜んでいるのかもしれない。 行儀よく、背筋を伸ばして。 (了)
[
掲示板
]
mobile-bbs