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憑依、麗子OF THE DEAD 続編 「 あ、流れ星!」 願い事をしようと素早くスマホを取り出したものの勿論間に合う訳も無く、俺は充電が15%まで減ってしまった電話を再度内ポケットに突っ込んだ。 龍がヘマをしたせいで突如豹変してしまった麗子。 別人の様に顔を変え、髪を振り乱しながら他国語の奇声を上げて俺の愛車の破壊をいまだに続けている。 「 あーあ、ボンネットの上に乗っちゃったよ…」 ドアロックが解除出来ないと悟ったのか、あろうことか麗子はブロックを抱えてボンネットの上に這い上がり飛び跳ね始めた。 まさかその手に持ったブロックでフロント硝子を叩き割るつもりだとでも云うのか… 「 ぐす…」 突如、鼻が詰まったかと感じた途端俺の頬を涙が伝った。嬉し涙とも悔し涙とも違う、何か別の感情がその時俺の胸を支配していた。 庶民の夢クラウン 月四万の三年ローン 保険屋の番号をスマホでチェックする。充電は既に8%を表示している。 恐らく車の中で怯えている香織と龍には俺のこの気持ちは分かるまい。お前らの置かれている状況も中々にハードかもしれないが、今の俺に比べたら大腸菌とビッグフット程の差があるだろう。 「 …ひひ…」 遂に麗子がブロックを硝子に投げつけた。 しかし鈍い音をさせ跳ね返ったブロックがまともに麗子の体にブチ当たり、ドシャリと後ろへと吹っ飛んで行った。 「 ざまぁみやがれ…ひひ…」 心の中で軽く毒づいた後、俺は少し後悔した。 確かに今の麗子は洒落にならない。得体の知れない何かに支配されているのは間違いないだろう。 しかしそれを笑うという事は香織の親友を笑うという事だ。俺は一人心の中で反省した後、後ろのポッケから特殊警棒を取り出した。 俺はいままで運動部に所属した事も無ければ、武術なども習った事は無い。しかし四歳から喧嘩という実戦で戦って来た経験と知識と度胸は持ち合わせているつもりだ。 取り憑かれているとはいえ所詮は女。ここ十年程は連戦連勝のロビン様がこんな基地外に負ける理由は一つも無いのである。 「 おい!麗子!!」 返事は無い。 奴は先程の一撃でボンネットの向こうへとすっ飛んでしまってから、気を失ってしまったのかまだ姿を現さない。 「 い、今の内に逃げるか…」 俺は警棒を伸ばしたまま、いつでも殴りかかれる体制を取りジリジリと愛車クラウンの元へと近づいていった。 そこでふと妙な違和感に気付いた。 静かだ… 先程まであった潮風に煽られていた木々の音が消えている… 「 …………」 クラウンを見ると龍と香織が車の中から、俺の方を指差して大声で怒鳴っているように見える。 無論、窓が閉まっているので奴等が何を言っているのかは全く分からない。 首元に妙な冷気が走る。 後ろ…? もしかして龍達は俺の後ろを指差しているのか? ギャーギャー!! 振り返ろうとした時、突然左手の森から数羽の大きな鳥が飛びたった。 「 ち、ビビらせんじゃねぇよこの野郎!!!」 俺は鳥に石を投げてやろうと足元に目をやり屈み込んだ。その時左目の視界の隅にそれを捉えたのだ。 白い裸足の脚 それは俺のすぐ後ろに立っているようだ。 「 ……麗子…か…?」 俺は瞬時にそれが麗子だと見抜いた。 しかし残念な事に武器の特殊警棒は石を拾う為、先程ポッケにしまい込んでしまっている。 これは素手の肉弾戦に切り替える必要があった。 麗子は卑怯にも俺の背後を取っているものの、いつでも攻撃が出来ると気を抜いている筈だ。幸いこちらが気付いている事はまだバレてはいない。 喧嘩屋の俺が取る行動はただ一つ、ノーモーションでの上段後ろ回し蹴りだ。もうこれしか無い!! 「 うりゃーー!!!」 ドスウ!!! 決まった! モロに首に入った! ドシャリと倒れ込む音がして、すかさず俺は麗子に馬乗りになりトドメの拳を振り上げた。 誰だよお前… 俺の心の声だ。 月明かりが照らし出すその顔は、麗子とは似ても似つかない汚らしいオッさんだった。 いや只のオッさんでは無い。こいつは黒人だ、しかもゴリゴリのやつだ。 そいつは白目を剥き、口から血と共に黄緑色の液体をドクドクと吐き出している。 しかも糞全裸!! 「 胸毛気色悪い!!!(゚Д゚)」 俺は本気の一発をそいつの顔面に振り下ろした。 グシャ!っと顔が潰れ、そいつはピクリとも動かなくなった。 「 …………」 ジャリ… ジャリ… ジャリ… 俺は肩で息を整えながらも、背後から近づいて来るその足音に気付いていた。 どうやら一人では無い。 ジャリ… ジャリ… ジャリ… ジャリ… ジャリ… ジャリ… ジャリ… ジャリ… ジャリ… ジャリ… ジャリ… 振り向くと、街灯の下から墓石の細道をこちらに向かって歩いてくる数人の男。いや女もいる。 そいつらは何故か皆全裸で、頭を斜めに傾け、両手をこちらに向けながらのスタイルでアーアー言いながらゆっくりと歩いてくる。 「 はいはい、ゾンビゾンビ!」 俺はポッケからまた特殊警棒を取り出し、冗談の様なこの展開に本気の怒りをおぼえた。 「 てめーら!ここはジャパンだぞ!! ゾンビは他国でやれ、コンちくしょーが!!!」 完全にキレてしまった俺は、これが夢であってくれと願いつつもそいつらに向かって殴りかかるのだった… 【続く】
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