投稿記事
ランタンの光度を最小にして寝袋に潜り込む。 酔いも手伝い、あっという間に睡魔がやってきた。 薄れ往く意識の中… (なんだ!?) 激しい雨音にまぎれて意外な…それは、あまりに場違いなものが鼓膜を震わし、 俺の眠気が一気に吹き飛んだ。 「誰だ?こんな夜中に念仏なんか唱えてるヤツは?」 Aさんの声…そうだ、念仏だ…確かに聞こえる… 寝袋からBも顔を出し、聞き耳を立てて様子を窺っている。 全員が…雨音に掻き消され…途切れ途切れの念仏を聞いていた。 「ここからは少し遠い…な」 「仏教はまるで詳しくはないが…あれは念仏だと思う…」 少しずつ声が大きくはっきり聞こえるようになってきた。 近づいてきている…深夜のキャンプ場を雨の中…念仏を唱えながら歩いてくる人間… 声…若干のズレがある…いくつもの声が被っている… 一人ではなく複数で唱えている… 雨が降る闇の中、念仏を唱え一列縦隊で進む笠に墨染め…僧形の集団… 脳裏に浮かんだ不気味な光景… そこに、俺達のいるテントのすぐ近くで沁み入るような鈴の音… 激しい悪寒が全身を襲った。 思わず両手で身体を抱きしめるようにして擦り、 冷気を払おうとしたのだが余計に寒さが募る。 マイナス10度まで使える寝袋の中で強烈な寒気を感じている。 なんだ…あの、鈴の音… 息を吐けば白くなるんじゃないだろうか。 悪寒だけじゃない…気温が急激に低下している…まだまだ下がり続けている。 目の表面が渇いて開けていられない。 鼻の奥がつんと痛くなる。 口の中がカラカラに渇いて… 耳が、聴覚だけが雨中の…周囲の音を拾い…脳に絶えず情報を送り込んでくる。 ぬかるみの中…泥濘を蹴立て…近づいてくる足音… 朗々と唱えられる念仏… キャンプ場の入り口付近…
[
掲示板
]
mobile-bbs