投稿記事
結局、あの白昼夢はなんだったのだろう。 パパに相談しても、「疲れてるんだよ。休みな?」と労られて終わってしまった。 数ヵ月は気にかかり、不安に駆られていた由美だったが、娘たちが無事に大きくなるにつれ少しずつ忘れていった。 恐ろしい幻のお蔭で娘たちにより注意を払うようになったからだろうか、花菜はあの日以来熱を出さなくなり、手のかからない子になった。 菜々もなんだか少し落ち着いて、特に、妹にちょっかいをかけて泣かせるようなことがなくなった。 恐ろしかったはずの幻は、由美に母親としての自覚を促すための契機に過ぎなかったのかもしれないーー。 それにしても、最近花菜は本当にぐんと重たくなった。 成長するのは喜ばしいことだが、そろそろ抱き上げるのも一苦労だ。 「菜々、花菜に体重抜かれちゃったんじゃないの?好き嫌いばっかりしてるから」 さっきも人参を皿の隅に寄せていた菜々を横目に、由美は腕の中の花菜へ「ねーっ」と喋り掛ける。 偏食だなんて思わぬ火の粉が飛んできた菜々は、おませに長めの溜め息をついた。 「カナはおっきくならないよ?あそこからうごけないし、ごはんたべないもん。ずーっとちっちゃいまま」 「え…菜々ちゃん?何言ってるの?」 由美は瞬きをした。 娘の言葉が上手く理解できなかった。 なんだかやけに、花菜の重みを感じる。 不思議と、徐々に重たくなっているような気すらした。 菜々がもう一度言葉を紡ぐ。 母親に抱かれる自分の妹を、静かな瞳で見つめながら。 「そのこは、しらないけど」 弾かれるように、由美は花菜に視線を向けた。 小さな口が、かぱっと開いた。 (了)
[
掲示板
]
mobile-bbs