投稿記事
美味い飯を食い、美味い酒を飲み、風呂に入って、久しぶりに屋根の下で布団へ入って寝た。 テントとは違って寝心地が段違いだ。 それに熊等の襲撃を恐れる心配がないのは最高だ。 これでフタフタマルマル就寝、ゼロフタマルマル起床でなければ至福だったのだが… なんでも、おっさんが操舵する船で、すごいところへ連れていってくれるのだそうだ。 午後11時まで食堂で俺達と飲んでいたのだが、午前2時きっかりにおっさんは起こしにやってきた。 船で摂る朝飯の支度も済んでいるとかで、本当に寝てんのか、あの人… 厚着して眠い目を擦りながら外へ出れば、エンジンをかけた軽トラが待っていて、有無を言わさず荷台へ乗せられる。 港に着くと、おっさんが操舵する船へ乗り込み、真っ暗な海原へ出た。 出港してしばらく無言だったおっさんだったが、 ちょっとショートカットして行くからと、軽い口調で俺達に断りを入れる。 深夜で島影どころか、目の前の波すら見えない海の上… 何をショートカットするのかと思えば、 現在は別の国家が占有している日本固有の領土がある海域だった。 北海道に来て熊と相対する覚悟はしていたが、流石に拿捕までは想定外…気構えなんか出来ていない。 極寒の牢獄に囚われ、餓死と凍死に怯え、壁に生えた茸を見ながら、 空缶に用を足すことになるのは絶対に嫌だ。 俺達は船長兼民宿の親父のおっさんに向かって本気で土下座したよ。 地図にしか見えない赤い一点鎖線の内側へお願いだから帰しておくれと、手を合わせれば… おっさんはエリアス三等軍曹を謀殺せんと企んでるみたいな悪い顔で、 「お前等、俺がどこでカニを捕ってくるか知っているか? 道内では船影がちらりと見えただけでカニは岩陰に隠れてしまうが、 こちらでは真上を船が通ろうと、のうのうと行列を作って歩いているくらい擦れてないから捕り放題なんだ。 言ってみれば、ここは俺の庭みたいなものだから安心していい。」 もし、露助の警備艇に臨検されそうになっても、漁船には分不相応な高出力エンジンを積み、 操舵室後部の壁には分厚い鉄板が仕込まれているから、 小銃の弾くらいなら暫くは耐えられるから平気だと、鼻で笑った。 それに、民主化した所為で極貧生活を送っている奴等に効果覿面の、強力な鼻薬も搭載済みらしい。 おっさんに全てを任せるしかない、腹を括るしかない… 海の上では彼がトム・べレンジャー(二等軍曹)なら、俺達はチャーリー・シーン(新兵)でしかない。 それって●漁やってるって事だよな?とか、おっさんに訊ねる余裕は無かった。
[
掲示板
]
mobile-bbs