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Aさんの息が荒い。恐怖の成分がたっぷり含まれてる。 Bは口を開く余裕もないらしい。 日が沈んで完全な闇が周囲に満ちた。 Aさんがキーホルダーとして付けている豆懐中電灯を点けた。 無いよりはマシだ! その光が指し示す先へ、俺達は無我夢中で走る。 足場の悪い未舗装の道を何度も転びそうになりながら必死で逃げた。 行く手を阻む張り出した樹木の枝が露出した肌を引っ掻いてくる。 懐中電灯の明りが、行く時に跨いだ車止めのチェーンを照らしだした。 「あと少しだ!B頑張れ!!」 ラストスパート! 三人一斉に横並びの状態でチェーンを飛び越える。 その向うには俺のパジェロが… リモコンでロックを外してドアを開けるとAさんまでも乗り込み 「バイクは朝になったら取りにくるからこのまま車を出せ!」 湖から這い出した奴らが追ってくるのではという恐怖… もし、標本自身が収集者で管理者まで兼任しているとしたら… ドアを閉め…施錠! 運転席に乗り込みキーを廻してエンジン始動! AさんとBが助手席… 息を整える時間も無い! 二の腕から脹脛から悲鳴をあげている。 フロントガラスの向うは月も出てるし見事な星空だ。 おかしい… 逃げてるとき、質量すら感じるのではないかと思う程、 濃い闇の中を走った…月明かりなどなかったはずだ。 まるで…別の世界から、こちらへ帰還を果たしたみたいに… 砂利を跳ね飛ばし、俺は少しでもあの場所から離れようと 思いっきりアクセルを踏み込む。 2800ccインタークーラーターボディーゼルが唸りをあげた。 パジェロは弾丸のように真っ暗闇の道を疾走する。 民家が見えるまでスピードを緩めることなく… 後年、彼の地が立ち入り禁止区域を解かれ、 人気の観光スポットとなったことをネットで知って 動画や画像を検索して確認したのだが… あの時と様相が…かなり違っていた… というか…俺達が行ったあの青い湖と まるで別の場所だった。 確かに、ネットで見た白金の青い池も この世のものとは思えない…絶景と呼べる場所だったが・・・ 俺達が見た…あの彼岸そのものの…青い湖は… それから 湖の中に並ぶ人や動物達… あれを写真に納める事が出来なかったことが 悔やまれてならない。 (了)
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