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風呂から出ると、夕日が原野の向こうに落ちて行くところだった。 テントへ戻ったら飯の支度をしないとな。 いくらかでも明るいうちに済ませるのが鉄則だ。 湧別で買ったラム肉と野菜があるから、炭を熾して今夜はジンギスカンにしよう。 インスタントの味噌汁… 飯は…以前、友人から貰った自衛隊謹製戦闘糧食I型… 暗緑色をした禍々しい缶に二合の飯が詰まった通称『缶飯(カンメシ)』 酒の肴には自衛隊が生んだ最高傑作『たくあん漬け』を出そう。 普通のたくあんとちょっと違うが、中毒性を覚えるほど妙に美味い。 DEENの『瞳そらさないで』を口ずさみながら俺は野営地へ戻る。 テントで飯の仕度をしていると、見るに見かねてか… 家族連れで来た方々が場所を提供してくれた礼に、俺達を夕食へ誘ってくれた。 俺達…というのはバイク旅をしている連中を含めての意味だ。 テーブルに並べられた料理の素晴らしさを目の当たりにすれば、 断わるなど…できる筈もない。 ジンギスカンと戦闘糧食の出番は後日へ持ち越し。 それにしても、道民はこういったアウトドアは慣れているのだろうか… 調理器具など、家と違ってろくに揃っていない状態で… 煮込みから焼き物…蒸し物、サラダにスープ…一体、何品目あるんだ… 震えるほど豪華!燃え尽きるほど豪勢!刻むぞ食欲のビート! 並べられた料理に目も意識も魂までもが釘付けだ。 手土産にと持参した本土の銘酒三本を旦那さんに渡し、 俺達は遠慮しないで貪り喰らった。 天空の城ラピュタでシータの作った飯を夢中で喰う空賊一家の如く… あんまり美味すぎてやめられない止まらない。 毎晩、怪異に悩まされてはいたが、旅を途中で投げ出さなかった理由のひとつに 北海道民がくれる無償の優しさ…温かさがあった。 上陸した初日、民宿の婆さんは一度落とした風呂を温めなおして俺達を迎えてくれた。 夕張で、へとへとになって林道を抜けてきた俺達に、農家の爺さんが これを喰えと手渡してくれた…惜しげもなく本場の夕張メロンを… 車を停めて地図を眺めていれば、道を教えようと話掛けに来てくれた。 サロマ湖でも2000円で山ほどの魚介類を売ってくれた。 飯屋に入ればどこでも山盛りにしてもてなしてくれたな… 今夜も…見ず知らずというのに 素晴らしい晩餐へ招待してくれた家族… 遅くまで酒を飲み語らい 満天の星の下で最高の夜を過ごし、 それから各々のテントへ戻って眠りについた。
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