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黒い因縁 これは俺が毎日の様にナンパに明け暮れていた十代の頃の話だ。 その夜、いつもの様に舎弟の龍と共に神戸は三○宮の街まで繰り出していた。とっておきのギャグで見事酔っ払いの美女二人をゲットした俺達は、彼女達の提案で明○市にある心霊スポットまでドライブがてら向かう事にした。 しかし最初はウザいぐらいテンションも高くノリの良かった彼女達だったが、車を走らせて二十分程すると口数が減り出し、終いには後部座席で寝息を立て始めた。 困った事に俺も龍も心霊スポットの詳しい場所を知らない。 もう面倒くせぇからこのままひと気のない場所まで連れてってヤッちまうかと悪巧みをしていると、後ろからか細い声がした。 「 次の信号を右… 」 なんだ起きてやがったのかと思いながら(内心ガッカリ) 、言われた通りに次の信号を右折した。 緩い傾斜が続き、車は新興住宅地を抜けた。 なんか雰囲気が出て来た。 街灯も疎らになり、両サイドを山に囲まれた暗い道路が延々と続いている。後部座席からはやはり二人のスースーとした寝息が聞こえてくる。 「 フェンスを越えたら最初の角を左に曲がって…」 また背後から声がした。 言われた通りに左折する。 「 あ、兄貴!」 助手席の龍が後ろを見ながら震える声で肩を揺すってきた。なんだよとルームミラーを覗くと後部座席には誰も乗っていない。 車を急停止させ、改めて後ろを確認するがやはり誰も乗っていない。更に異様なのは車内は真っ暗な筈なのに空気がやたら濁っているのが分かる。まるで中で何かを焚いたかのようだ。 恐怖の余り俺達は声も出さずにゼスチャーでこれからどうするかを話し合った。そしてとりあえず逃げるかと意見が合った時龍が俺の背後を指さした。 ゴン!ゴン! 運転席の窓をノックされ振り向くとあの二人が外に立っていた。二人とも顔を硝子に近付けて降りて来いと合図をしている。血色のない真っ白な顔だ。今思えばもうこの時から俺達も正常では無かったと思う。 言われるがままに車を降りるとまたもや二人がいない。消えた。 周りは深い闇と濃霧に包まれており数m先も見えない。しかし随分先の方に二人の歩く後ろ姿が見えた。何故か彼女達の周りだけがボンヤリと鈍く光っている。 俺達は彼女達の後を追った。 フェンスが破れた穴を抜け、獣道に近い藪漕ぎだらけの歩きにくい道を進むと大きな沼に出た。元々大きな沼なのか?今は減水しているようだが既にこの時俺達は膝まで泥水に浸かってしまっていた。 沼の真ん中辺りにボォっと揺らめく人魂が二つ、青みを帯びた炎と共に浮いている。 勿論、頭の中ではこれ以上行ってはならないという危険信号が出ているが、足は俺達の思いを他所に一歩また一歩と沼の中へと進もうとする。 暫くすると目が慣れて来たのか人魂の中に彼女達の笑っている顔が見えた。目を釣り上げ爆笑している。なんか狐みたいな顔だ。 腰まで泥に浸かった所で急に足が前に進まなくなった。足元に何かが引っ掛かっているようだ。 右手を水の中に突っ込みそれを引き上げてみると、分厚い布の様な物が出て来た。泥に塗れていてそれが何なのかよく分からないが兎に角めちゃくちゃ重い。 龍と二人掛かりでバサバサと泥を振り落とすように振っていると中から白く丸い塊がボロリと転がり落ちてきた。龍が横から慌ててそれを両手で掴む。 白骨。それは誰がどう見ても頭部の人骨だった。 この状況。 俺の脳が人格崩壊の危機を察知したのか頭の中で小田和正氏の「言葉に出来ない」がゆっくりと再生された。龍は恐怖で気が触れたのか手の平の人骨に頬擦りをしている。見た事もないとても優しい顔で… 「 あなた〜にあえ〜て♪ ほんと〜によかぁあった♪ 嬉しくて〜嬉しくて〜言葉にできな〜ぁい♪♪ 」この後の「ラーラーラ♪」は龍と肩を組みながらのコーラスで三十分程リピートで熱唱した。お陰で足がブヨブヨにふやけ、喉をやったのは言うまでもないだろう。 大声で熱唱する事により死人の妖術を解いた俺達は、隙を見て猛ダッシュで愛車(クラウン)へと逃げ帰る事に成功。龍とハイタッチを交わした後、後部座席を見ると美女が二人アイプチにより閉じない瞼をヒクヒクと痙攣させながら気持ち良さそうに爆睡していた。 翌朝、迷ったが龍の握っていた骨を袋に詰めて警察署に持っていった。匿名にしようかとも考えたがガラケーが水没してしまった為と、直ぐに首を突っ込みたがる悲しい性格の所為である。 捜索の結果、骨の正体はある事件に関わり逃亡中だった某○○組織の構成員である事が分かった。両手両足を縛られていたらしいので多分そういう事だろう。 偶然では済まされないこの事件発覚に、俺達は死ぬ程警察に疑われ四ぱちでは済まない程の取り調べと追及と脅しを受けた。関わるんじゃなかったと後悔したが後の祭りだった。 因みに龍は取り調べ中逆ギレして警官を殴り、拳銃を奪って逃げようとして捕まり逮捕された。理由は一度本物を撃って見たかったらしい。馬鹿だ。 容疑が晴れた俺は風呂に浸かりながら考えていた。 俺達はこの世成らざる者、あの死体にあの場所に呼ばれた?では何故関係のない俺達を現場に呼び寄せたのか?何故俺達が選ばれたのか?何か理由がある筈だ。 ぴちゃん 天井から雫が一つ鼻の上に落ちてきた。 するとその瞬間、俺の頭の中に見た事もない映像が次々と流れ出した。 だだっ広い駐車場でボコボコにリンチされている男。裸にされ大勢の人間にひたすら殴る蹴るを繰り返されている。後ろ手に縛られながら苦しみもがいている。 やがて男は動かなくなり、毛布の様な物で簀巻きにされて車のトランクに押し込められた。 んっ?この車は見た事あるな…もしやクラウン?なんか色も型も俺の車に酷似しているんだけど。車番も同じだ。あれ? 車は山道をひた走り、見覚えのある破れたフェンスの横で停車した。 「 ………… 」 後はご想像通り、数人で運び出し沼に沈めてはい終了!…ふぅ… 風呂から上がると、直ぐに車(クラウン)を売ってくれた先輩に連絡を入れた。 『 お掛けになった電話番号は、現在お客様のご都合によりお繋ぎ出来ません… お掛けになった電話番号は、現在お客様のご都合… 』 ピッ… ふ、成る程な… 【了】
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