投稿記事
… ギャイーーーーン!! ギャイーーーーン!! グラグラグラグラ、ガタン!! 背後の窓の辺りから謎の怪音が二回響いた後、日本刀が置かれている辺りで何かが倒れる音がした。 そこには灰色のオーラの様なモヤがグニャグニャと湧き出していた。 そのモヤは次第に人の顔の様な形に変化していった。 「 …お、お父さん? 」 それは紛れも無く昨年他界した父親の顔だった。 遠近法を完全に無視したその大きな顔の父の目は、足元にいる市松人形に向けられていた。 『 …おい憲司… それは夏美だ… 』 と、真っ暗だった部屋の蛍光灯がまた点滅を始めた。 足元を見ると夏美の膝に手を回している人形の頭が、また左右に激しく振られていた。 『 …憲司… もうお前は死んだ…美菜に憑きたいんだろう…?… それは絶対に許さんぞ… 』 ズリ… ズリ… 人形は夏美の足から手を離した後、ゆっくりと閉められたドアの方へと向かって歩き出した。 ズリ… ズリ… 『 …おい憲司… そっちに行くな… 美菜なら今日は友達の家にお泊りしてるから帰ってこんぞ… 』 ズリ…! それを聞いた瞬間、人形の動きはピタリと止まりカタカタと此方を振り向いた。 『 …夏美… もう心配せんでいい… 憲司はワシが連れてゆく… 美菜には悪いがこの器も壊していく… 』 そう言うと父はドアの方へゆっくりと視線を移した。 ドアの前には呆然と立ち尽くし此方を見つめる不気味な日本人形。 次の瞬間… バーーーーン!!! 突然、物凄い勢いでドアが開かれた。 「 な、夏美!さっきの音何?!大丈夫なの?!」 母親が慌てて部屋の中へと飛び込んできて、夏美を抱きしめた。 「 お、お母さん痛い、痛いよ…」 「 大丈夫なの?怪我は無い?!」 「 うん大丈夫… それよりお母さん、お父さんが… 」 夏美は日本刀が倒れている床の間を指さした。 「 お父さん? お父さんがどうしたの?!」 母には父の顔が見えて居ないのか、辺りをキョロキョロと見回している。 遠近法を無視した父の顔は先ほどより少しボヤけていた。 そして背後の壁に吸い込まれる様に少しずつ、少しずつ消えゆく父は最後にこう言った。 『… さらばだ… 夏美… 』 … … 部屋は蛍光灯の点滅も収まり、異常なまでの寒さも無くなっている。 市松人形が入っていた硝子ケースは中で火でも焚いたかの様に黒ずんでいた。 倒れた日本刀を元に戻し、母に手を引かれて部屋を出る時、ドアに挟まれてバラバラに砕けている人形の一部が目に入った。 「 さっ、電気消すわよ 」 パチン… 「 ひっ!!」 部屋が暗くなった瞬間、夏美の後ろ髪を誰かが引っ張ったような気がした。 バタン! 母の体にしがみ付きながらゆっくりと階段を降りている時、一階のリビングからはサザエさんのエンディングテーマが流れていた… 【了】
[
掲示板
]
mobile-bbs