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「お兄ちゃんの脳はね〜現在、彼等の結界の中にあって、 視覚野を中心に奴等の集合意識によって乗っ取られているから、 階段や柱の位置とか距離感、平衡感覚、運動中枢…もしかすると体感する時間の経過速度とか、 色々狂わされてると思うよ。」 ユズキも雪輪屋さんもなんでそんなにこの異常事態に詳しいんだ? 雪輪屋さん…俺達を先に逃がした雪輪屋さんはどうなってる、無事なのか? 彼女が言ったことを守り、振り返ることなく階段目指して俺とユズキは走る。 そこに耳を劈くような甲高い悲鳴…いや、あれは断末魔か? 声は一度ではなく、異変を察知して慌てて飛び立つ水鳥の群れみたいに…次々と… 「お兄ちゃん、階段!転ばないように三段飛ばしで駆け上って!!」 「無茶言うな!平衡感覚がおかしくなって歩くのもやっとなんだぞ!? ユズキ、後どうなってる!?あの声は何だ?雪輪屋さんは大丈夫なのか!?」 陶器が割れるような…硬質的なものが砕けたような音も聞こえる。 俺達を先に生かせた雪輪屋さんが奴等に何かされているのだろうか? 頭上にある蛍光灯が激しく明滅を繰り返す。 「こんな時に気にするとか… お兄ちゃんって…もしかしてサーちゃん好きなの?性的な意味合いで」 「性的とか関係ねーよ!」 「あは、あの子はあっち関係で神様が相手じゃなければ殆ど無敵だから大丈夫!」 「何者だよ彼女!?」 「元は神様の生贄になる為に育てられてきたチートな存在だったとか!?」 「な、なんだそれは!?」 「まぁ、それはいいから走る走る、お兄ちゃん!」 手摺を左手が掴む。やっと階段まで来たか。 コンクリート製の上り階段がぐにゃりと歪み… まるでテレビ映像を視ているみたいな、視界に白いノイズが走り、ブレを生じ…歩きづらい。 「足場が…段差が…膝くらいまで高くなったり、平面に見えたり… これをホーム下から這い上がってきた奴等がやっているのか?」 泥酔していたとしても、これほど酷くなったことはない。 ユズキに引っ張られ、よたつきながら階段を上っていく。 例の音と声が…俺の背後からひっきりなしに聞こえてくる。 振り向きたい欲求を押さえ込み、最後の一段を上る。 「結界を抜けたよ」 妹の走る速度が緩む。もう、安心…なのか? 息を切らして足を止め、身体を折ろうとする俺をユズキは許さない。 「違うから、まだ安全圏じゃないから!」 妹は俺の手を離さず、引っ張って連絡通路をどんどん進んでいく。 「雪輪屋さんが来ないぞ?」 「サーちゃんは大丈夫だから、心配なら窓からさっきまでいたホーム見てみれば?」 友人を信頼しきっているのかユズキは確かめようともしない。 あんな異常現象に見舞われて…気にならないのか。 少し、薄情なんじゃないだろうか我が妹は… ユズキに手を引かれながら窓辺へ寄り、ホームに追いついてこない雪輪屋さんの姿を探す。 いた!奴等に囲まれ… 腰まで届く艶やかな黒髪が宙を舞い…コートの裾が翻る。 「あ、あああ…」 清楚…可憐…海辺で波と戯れる少女の如く…楽しそうに…無邪気に… ホームへ這い上がってきた異形達の頭を踏み潰してまわる雪輪屋さんの姿があった。 あの悲鳴…破砕音は…奴等の…
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