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のろのろと、車はフェリーに向かって進んでいく。 ターミナル二階からフェリー間に架けられた乗船用の通路が見えてきた。 乗客たちが続々と列を途切れさせることなくフェリーへと乗り込んでいく。 車組よりも早く乗船出来るのか… 俺達だってもうすぐ自分の番が来て、フェリーに乗ることが出来る… そして、二十時間後は念願だった北の大地を踏みしめることが出来る。 否が応にも、期待で胸が高まった。 のだが… 乗船を目の前にして 車列の歩みが完全にストップした。 そして、いきなり なんていうのか… 目よりも身体が先に… それよりも聴覚に異常… あれほど激しかった雨音が急に静かになった… 嵐が止んだ? これから台風が東日本を縦断していく話だ それはありえない。 窓の外に目を向ければ横殴りの雨が降り続いている。 試しに声を出してみる… みようとしたが声が出ない…妙な喉の渇き… いや、目でも異常を捉えていた… 乗船用通路…人の列の中…焦点がぼやける 肌でも… なにやら禍々しい…おどろおどろしい…怪しい気配と刺す様な冷気… 自分でも気付かない内に 俺は恐怖に呑まれていたようだ。 思考以外… 五感全てが異常を察知し 全力でその存在を拒絶たくなる程の怪異が目の前にある… 拒絶し韜晦していれば それは何もせずに去っていくものなのだろうか それほどの恐怖を撒き散らす怪異が… なけなしの勇気を振り絞って仰ぎ見る。
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