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どれくらい目を瞑ってたかわからないけど、いつの間にか雫の音がしていない事に気づいた。 で「もう大丈夫かな?」って目を開けたらあまかった。お互いの鼻がくっ付くかくっ付かないかぐらいの距離に目の離れた女の顔があったんだ。 女の目は両方とも血走っていて、おまけに生ゴミの腐ったような匂いまでした。 そういう時って、普通は金縛りとかで声も出ないんだろうけど、俺の場合は違っていて「ぎゃあああ!!!」って自分でもビックリするぐらいの声が出た。 その瞬間、また隣りの部屋で「ドン!」と、おっさんが壁を叩いた。 「ワレやかましいんじゃボケー!いま何時や思とんねん!!」おっさんはめちゃくちゃ怒っていた。 すると、女は俺から目を離してゆっくりとおっさんの方をみた。 「次また音出してみー、ワレしばいてもうたるからのー!」 明日が競馬の日だからだと思うけど、おっさんの怒りは収まらないようでいつもより多めに怒鳴っていた。 女は前屈みの体勢のままで、おっさんの方へ歩いていった。 女は壁の前でいったん立ち止まって、首を傾げてた。 「聞いとんかいボケー!!」 おっさんがまた壁を叩いた瞬間、女はスーっと壁の中に消えた。 暫くして「ぎゃあああああ!!!」っておっさんの叫び声が聞こえた。 「お、おんどれ、何もんじゃこら!」 それからはもう大騒ぎで、ドッタンバッタン、ガンガラガッシャン、硝子の割れる音やら壁を殴る音が続いて「ぎぃゃああああああ!!」って、おっさんのハイトーンボイスの断末魔を最後に、辺りは静かになった。 後でわかったんだけど、おっさんはベランダから落ちてあちこちを複雑骨折したらしいんだ。 おっさんの下の部屋に住んでたパンチパーマの婆さんが通報したらしいんだけど、後もう少し対応が遅れていたら危なかったって。 まあ、自分も無関係じゃないし、お見舞いでも行こうかなって思ったけど、結局は行かなかった。 その後はもう、おっさんが退院するまでにさっさと俺もその部屋を出たし、女の幽霊がどうなったのかも、あのボロアパートがどうなったのかも知らないよ。 いや、 知りたいとも思わないけどね。 … … 猛は話し終えると、やりきった表情で夏美の方をチラチラと気にしています。 猛にしてはなかなか興味深い話ではありましたが、ありきたりというか、怖さという点ではいまいちパンチがないように感じました。 怖話読者をナメて貰っちゃ困ります。 「さあ、次は兄貴の番だよ」 夏美が俺の背後をチラチラと気にしながら言いました。 「お、おう!でもこのぶんじゃ今回は不発に終わりそうだな。たったの5話くらいじゃ幽霊も寄ってくる暇ねーだろ、なあ夏美」 俺は「最低、はじめました同好会」のリーダーに恥じる事のない怖話を用意していました。 俺が話し始めようとした時、夏美がボソッと言いました。 「もういっぱい集まってるよ」 蝋燭に揺らめく夏美の顔は、兄の俺が言うのもおかしいですが、今まで見た中で一番、妖艶な顔をしていました。 了
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