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次の機会にアパートを訪れた際。 メール便を投函する寸前の私に、後ろから声がかかった。 「こんにちは。102号室の郵便、あるかしら」 長い黒髪の女性だった。 20代後半くらいに見えたが、年齢を推測するのは得意ではないので、当たっているかどうかわからない。 きれいな顔立ちをしていたと思う。 「相原○○と言うのだけど」 私が名前を伺うよりも先に、彼女が言った。 「こんにちは、102号室の相原様ですね。御座いますよ」 彼女が名乗ったフルネームが手元の商材の宛名と完全に一致していることを確かめて、手渡しする。 ありがとう、と微笑んで、彼女は102号室に入っていった。 ということはつまり、表札を連名にしていないだけで相原さんはやはりここに住んでいるのだ。 よし、これで居住者本人による確認が取れた。 相原宛のメール便も投函してよい旨を、自転車に積んであった配達用の地図に書き込む。 その後も度々、彼女宛の商材は来た。 彼女が出てきた時は手渡しし、いない時にはポストに入れていたのだが、暫くして102号室のポストに貼り紙が追加された。 『神田宛の郵便物以外は誤配です。投函しないようにしてください』 え…?私は先週も確かに相原を名乗る女性にメール便を手渡しているし、彼女が102号室の鍵を開けて中に入るところも見ている。 この一週間の内に、相原さんだけが出ていったということなのだろうか。 恋人関係で同棲していて破局し、彼女の名前を見るだけでも辛い…というのであれば、彼女が去ってすぐさまこんな注意書きを貼ることもあるかもしれない。 いずれにせよ、貼り紙がある以上、神田宛以外の商材を入れることはできない。 その日もあった相原宛の封筒を、私は持ち帰った。
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