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19時前、俺たち3人は公園内の遊歩道にいた。 六佑がありかちゃんの腹に手を当てて、眉間に皺を寄せている。 「…だめだ。やっぱこいつ、すっげわかりにくい」 「いないっぽい?」 「いや、腹になんかあるのはある。けど、意思っつーか念っつーか、そういうのがなあ…」 薄いらしい。 女性の子宮に入り込むなんてのは、産まれたい気持ちが強いからこそだろうに、確かに妙な話だ。 六佑曰く、ありかちゃんは憑かれてもほとんど気の流れ?が変わらず、霊の念が表に顕れにくいらしいから、その所為もあるとは思う。 しかしそれにしても意思薄弱すぎるようだ。 となると、こちらから働きかけようにも暖簾に腕押し、糠に釘でどうしようもない。 「うーん…婆ちゃんとこ行くしかないか…」 六佑が唸っている。彼の第六感は婆ちゃん譲りだ。 もっとも、婆ちゃんにしても見えるだけのただの一般人らしいので、その除霊に保証はない。やり方も、経験則の出鱈目である。 まあ、効けばいいんだよ効けば…。 「来たぞ」 唐突に、ありかちゃんが呟いた。 六佑はもう、視線をそちらに向けている。 ぺちっ、ぺちっ、ずっ、ずっ ありかちゃんから聞いていた通りの音が、闇の向こうから響いていた。 「ちょっと待って。赤ん坊は今、ありかちゃんの腹の中なんじゃないの?」 俺が口にしたのは当然の疑問のはずなのに、ありかちゃんも六佑も「そう言えばそうだな」みたいなノリで顔を見合わせている。 「ということは、どういうことだ?」 と、ありかちゃん。 「赤ん坊がふたり以上いるか…」 考え始めた俺の台詞に重ねて、六佑が言った。 「違う!あいつ、赤ん坊じゃねぇ」 「「えっ?」」 ハモる俺たち。 ぺちっ、ぺちっ、ずっ、ずっ 辛うじて視認できるようになったそいつの輪郭は、ハイハイしている赤ん坊にしか見えないのに? 「母親の方だ」 俺たちに言い置いて、六佑が一歩前に出る。 「聞け!あんたの子どもはこんなとこにはいねーぞ!」 よく通る声が、暗闇を震わせる。 「ちゃんと、天国とやらに行ってる!あんただけが気に病んで、迷い続ける必要なんてないんだ!」 ぺちっ、ぺちっ、ず… 這いずりが、止まった。 「お互いもっかい生まれなおして、今度こそ母親になってやればいいだろ。今度こそ……正しい、納得できる形で」 赤ん坊の形をとった何かは動かない。 六佑の話に耳を傾けているようだった。 「在処…、お前もなんか言え」 肩に手を置かれて、ありかちゃんが深く息を吸う。 「あなたの子どもを代わりに産んでやることはできない。赤ん坊が望んでいないからだ。その証拠に、私の腹に本当の赤ん坊はいないと六佑が言ってる」 人ならざるものにも真っ直ぐに注がれる、ありかちゃんの視線。 「その代わり、私が生きている内に転生して子どもを産んだら連れて来い。子守りくらいなら手伝おう!」 なんだそれ。 ぷ、と俺が思わず吹き出したのが先か、赤ん坊の影が消えたのが先か。 「逝けたろ」 六佑が呟いた。 と、同時にありかちゃんが「ひっ」と短く悲鳴をあげる。 「まずい」 「え?何?」 「ちょっと、お手洗い」 言うや否や、変な姿勢で公園のトイレに走って行ってしまった。 数分後に戻ってきたありかちゃんは、大量のトイレットペーパーの上に血塗れの小さなひよこぬいぐるみを乗せていて、それを見た六佑が卒倒したのは言うまでもない。 「落とした時に回収しそびれたと思っていたが、まさかお腹の中だったとは…」 「………生理来てよかったね」
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