MH小説・日記


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無名
草子終演
 これは狂った物語ではない。
ただ戯れ言を呟き続ける歌でもない。
汝に問う。
この世界の正義とは何ぞや?
そこに答えはないかも知れない。
求めることに意味はないかもしれない。
だけど、それでも。





「この先が罪であろうと、罰があろうと構わん!
俺は俺の信ずる正義-ミチ-を征く!」




  カ  タ  リ  ヲ  ワ  リ
The Story of Justice into extend Last




Opening
“ありとあらゆる始まりの写”
     Re:frain
>>1>>2
一話目
“禍つ狂ひの初め”
  Starting
>>3>>15
二話目
“背負わされた者達”
   Criminal
>>16>>33
“術式『Art of paradox』”〜Deamon's art〜
>>34
“背負わされた者達・罪”
   Criminal
>>35
09/12 16:55
[N08A3]
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◆[38]無名
「"Art of paradox."」
 ──“矛盾魔剣”──

 魔術が完成する。
アルティアは“振り下ろす”ことだけに特化した構えから一歩踏み込んで、その剣を振り下ろした。
 男の予知は正しかった。
確かに0,2秒後に斬撃は発生した。
そしてそれを避けることに成功した。
剣の軌跡は全くと言っていいほどに見えなかったが来ると分かっている攻撃が線であるなら避けるのは不可能ではない!

右腕はどこかに飛んでいったがそれだけの損傷で避けられたなら幸いだ!
男は残った左腕で杖を構え、反撃に出ようとするがそこで“異変”に気付いた。
02/11 11:13
[N08A3]
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◆[39]無名
 最初に気付いた異変は、世界から音が遠ざかっていくことだった。
先程までは町から聞こえてきた戦いの音や、丘に吹いていた風の音など全てが消失していく無音の世界。
異変は続く。
杖を握っているはずの感覚が消える、右腕にあるであろう痛覚が消える、自分が立っているのか、座っているのか、浮いているのか、自分が消失していく錯覚に陥る。
朦朧とした透明な意識の中でさらに続く異変を感じ取る。
世界から色が消える。
丘の緑は灰色に、宙を舞う血は灰色に、少年が纏った悪趣味なコートも灰色に、小高い場所から見下ろす町は灰色に、どこまでも続く青空は灰色に、爛々と輝く太陽も灰色に。
全てが灰色に染まり、世界から色が消失していく。
やがて色を失った世界は混ざり合うように輪郭が消失していく。
輪郭が消失した世界はまるで融合して一つの物体になったかの様で、灰色すら消えていき黒く、いや、宇宙の様に塗り潰されていく。
その中で一つだけ輝くものがあった。
02/11 11:13
[N08A3]
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◆[40]無名
 それは、時すら追い抜く速度を持った一撃。
全てを斬ることだけに特化して放たれた一撃は音など見向きもせずに光を追い抜き、時間すら追い抜いた。
0.000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000001秒より速い、とかそんなのではない。
零秒よりも速かったのだ、その一撃は。
世界という時の中にありながら、時を超える速度をもったものが存在する。
世界はその矛盾に耐え切れず、ひびが入る。
世界はそのひびを修復するために、その矛盾を受け入れるために選択肢を要される。
その選択は“永遠を放棄して一瞬を超えるか”、“一瞬を放棄して永遠を保つか”である。
世界は後者を選ぶ。
時よりも速いものは存在するのだと認めて、世界に入ったひびをこれは無かったものだと修復し始める。
人間が100の力で傷付けたものを世界は1000の力をもって修復する。
何しろ世界だ、人一人などとは単位が違う。
こちらの1とあちらの1は違うのだ。
100の力で直る場所を1000で直せば当然余剰した力が出る。
その余剰分のエネルギーを操り、全てを両断する、時の速さを持った魔剣。
それがこの正体である。



 男は、消失した自分を取り戻した。
世界には色も、音も、全てが再生している。
ただ、自分の体が非常に軽く感じる。
どのくらい軽くなったかと言えば、そう、ちょうど半分くらい。

「あ、れ?」

 立っていることが出来なくなる。
体が後方に崩れていく。
何故だ、バランスを保てなくなっている理由を探すと、それは直ぐに見付かった。
崩れながら、先程まで自分がいた場所を見るとそこには左半身が血をぴゅーぴゅーと吹き出しながら佇んでいる。
 あぁ、あの輝きはそういうことか。
あれは、斬撃だったのだ。
時の速度に並列した文句なしの、魔剣と呼ぶに相応しいアルティメイタム・ワンの必殺。
 どさり、と自分の体が地面に叩きつけられる音を聞いた。
02/11 11:14
[N08A3]
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◆[41]無名
 四肢の半分以上を失い地面に倒れた男に、少年は剣の切っ先を向けた。
一度、ゴウと風が吹いて少年のコートが舞う。

「俺を殺すか、クソガキ」
「あぁ、殺すさ」

 その言葉には何の感情も込められてはおらず、まるで突き付けた剣のように冷徹だった。

「何故、俺を殺す!?お前に何の道理があって俺を殺す!?正義の、俺を!」

 そう怒鳴る度に断面から血が噴き出して丘に咲いた小さな花を真っ赤に染めていく。
瞳は怒りからか、出血のせいで意識が途切れかけているせいかは分からないが、焦点も定まらず開いた瞳孔は揺れている。

「はっ!最初に言ったじゃねぇかバカヤロウ。てめぇは悪だ、許されざる罪人だ、そんなてめぇが正義を語る姿は俺からしちゃちゃんちゃらおかしいぜ」

 見下しながら少年はまるで自嘲するかのようにそう言った。
その言葉を聞いて男はギリリと歯軋りを鳴らした。

「俺が悪!?この俺が罪人!?俺が、俺が何の罪を犯したのか言ってみやがれ!」

 男は今にも立ち上がらない勢いで上半身を激しく揺らしながら吠えるように叫んだ。
それを聞くと、今度は少年がギリリと歯軋りを鳴らした。
その眼は語る、「お前は本当に何も分かっていないのか?」と。

「生まれた瞬間だ。お前が生まれたのが罪だ。あぁ、産まれたんじゃない、お前が生まれたのが間違いなんだよ。お前もあの光景を見たんだろ?……ほぅら、それが罪だ。あの光景を見ながらに生きていることが罪なんだ!」

 その言葉はまるで“お前”を“俺”と置き換えてもなんら不思議ではないように少年は喋る。
見ると……突き付けた剣の先端が微かに震えていた。

「なっ、ん……だと!?」

 ごくり、と唾を飲む音で喉が鳴った。
少年の言葉を男は理解した、理解出来た。
だからこそ、納得がいかないものがある!

「ふざけるな!あれが罪だと!?奪われただけじゃねぇか!全てだ!全て奪われた!なにもかも!なのに俺が罪人!?俺の復讐が悪!?そんな馬鹿な話があってたまるか!」
「周りの全てが奪われたのに一人だけ生き残ったこと、そんな大罪を贖う方法は二つしかない。死ぬか、死ぬまで俺達みたいな人間が生まれるのを防ぐか、だ」

 少年が丘の下に覗く町を指差す。

「もしも、あの町で生き残っている人間がいたらどうなる?そいつは……第二のお前になるだろうよ」
02/11 11:15
[N08A3]
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◆[42]無名
 そして、剣をゆっくりと振り上げる。
狙うのは首、一撃で斬り落とす。

「ッ!」
「じゃあな」

 剣を振り下ろす。
綺麗な半月を描いて男の首を捉えた刃は……ただ、空を切るだけだった。
血飛沫が上がるどころかどこにも男の首など転がってはいない。
ただ男を抱えて地面を転がる女がいただけだ。
 アルティアがその女を見つけると改めて剣を振り上げる。
女もまた、そんな少年に気付き男を庇うように少年と男の間で両手を広げて壁のようにしていた。

「……どけ、女」
「どきません」

 深い藍色の瞳は強い意志でこちらを睨む。
───女が男を庇う。

「もう一度言う、どけ」
「どきません」

 息も切れ切れでその美しい銀色の髪は土にまみれている。
───男は剣を振り上げている。

「殺すぞ、どけ」
「どきません」

 ぐっ、と剣を握る腕に力を込める。
───男はただ女を見上げている。

「最後だ、殺すぞ」
「どきません」

 最後通牒を相手は聞き入れなかった。
ならば、あとは、剣を振り下ろす。
───男は剣を今にも振り下ろしそうで。少女は優しく微笑んで……



『大丈夫だよ、君は私が守るから』




「〜〜〜っ!」

 忌々しい思い出が、過去が、罪が、蘇った。
記憶としてではない。
デジャヴとかそういった類の体験の投影として全身を駆け巡る。
しかしそれも一瞬、次には猛烈な頭痛と胃が裏返されるような吐き気に襲われた。

「げほっ、げほ…が、はっ…」

 剣を落として四つん這いになり盛大に吐偖物を撒き散らしていく。
落雷のような頭痛で意識が剥がれそうになるが、胃液が喉を焼く痛みと猛烈な嘔吐感が無理やりに意識を引き戻す。
 女はそんな少年の姿に最初は驚いたが、それを逃げるチャンスと見たか男の体を支えて丘の麓、町とは反対側にある森の中を目指してよろよろとはしているものの急ぎ足で去って行った。
02/11 11:15
[N08A3]
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◆[43]無名
「はぁ、はぁっ……くそ」

 男を抱えた女が去った数分後でアルティアは立ち上がった。
嘔吐感は消えたが頭痛は未だに続いてる。
 逃がしてしまった、だがあれだけの傷を負っていれば死ぬのは間違いないだろう。
 剣を鞘に収めて返り血と自分の吐偖物で汚れた服を脱いだ。
やはりボディスーツだけでは寒いがみっともない姿を部下に晒せば士気は下がるし信用も落ちる。
舞台を率いる者として常に強い姿を保ち続けなければならない。
 町の方はどうなったのだろうか。
先ほどランスロットが“鏡は私を映さない”を使ったようだからある程度のカタはついているだろう。
 頭痛を抑え込みながら丘を下りていく。
「燃えろ」そう呟いて指を鳴らすと脱ぎ捨てた服がぼうっと炎に包まれた。



 町に戻ってみたら案の定、巨大過ぎる斬撃の爪痕が残されていた。
町の中は灰色の砂に溢れ、生命の色など微塵も感じられない。

「アルティア様」

 町に戻ってきたアルティアを直ぐに見付けたランスロットがどこからともなく新しいコートを取り出してアルティアに差し出した。
アルティアはそれを受け取り羽織った。

「損害は?」
「負傷者二名、それだけです」
「そうか」

 負傷者二名、思ったよりは軽微だったらしい。
数こそあれど所詮はリビングデッド、個体の力の無さは当然か。

「あの、それと、実は…」
03/23 05:45
[N08A3]
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◆[44]無名
 その路地の中を覗くとアルティアは真っ先に石を投げつけられた。
ランスロットが前に出てその石を掴んで捨てた。

「如何なされる?」

 アルティアの後ろ、円卓の全員を代表してガウェインが問い掛けた。

『実は、生存者がいます』

 さっきランスロットはそう言った。
路地の奥には一人の子供。
震えながら必死に落ちている石を拾っては投げている。

「……いつも通りだ、お前達はそこにいろ。ランスロット、お前もだ」

 石を防ぐランスロットを下がらせてアルティアは一人で路地の奥に進んで行く。
飛んでくる石など円卓に支給されている加護を施されたコートの前には全く意味がない。
鋼に石を投げているのと同じようなものだ。

「来るな!返せよ!僕のお父さんとお母さんを返せよ!」

 アルティアが一歩進む度に少年も一歩下がるが、それもすぐに終わった。
どん、と背中が壁に当たった。

「来るな!来るな!来るな!」

 渾身の力で石を投げる。
それはガン!という音を立ててアルティアの額に直撃した。
だが、それでもアルティアは前に進む。
額から血を流しながらも。
 やがて、子供の前に辿り着くとしゃがみ込んだ。

「大丈夫、私は君の味方です」

 にこりと微笑みながらそう言った。
その笑顔はとてつもなく優しくて、とてつもなく温かくて、まるで女神か何かだと思わせるくらいのものだった。

「あ、あぁ」

 子供はそんなアルティアを前に涙ぐんでいる。
アルティアはそっと手を伸ばし、その頭を撫でた。

「君は今日、全てを失った。そんな君を私は救うことが出来ない。だから、私に出来ることは一つだけ」

 撫でる手を止めて、子供の目を真っ直ぐに見て、頭痛を抑えながら続けた。

「君は死にたいかい?生きたいかい?」
03/23 05:46
[N08A3]
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◆[45]無名
 真っ暗な部屋、アルティアは一人ぼんやりとしている。
何が辛いって訳ではない。
今が辛い。
 あぁ、そうだ。
俺は、俺達は罪人なんだ。
世界から無理矢理に罪を背負わされて世界から爪弾きにされた人間、体の良いスケープゴート。
必要悪というものがこの世にあるならば、それはまさしく俺達だ。
自分の手を真っ暗な空間にかざしてみる。
 赤い、赤い、幾度も血に染まり鋼鉄を握り殺戮を繰り返した狂気の証だ。
 ───あの男は自らを正義だと言った。
違う、弱きを殺して我欲を成すことは正義なんかじゃない。
だって、そんなことは本当にあいつらと同一になってしまうから。
 そんなくらいなら俺は必要悪で良い。
悪業を成し、人々に忌み嫌われても良い。
だから、せめて世界は誰かにとって優しいものであって欲しい。
 この世界に俺の居場所はないのかも知れない。
それでも良いから、大切なものを失う痛みは誰も知らないで欲しい。

 コンコン、とノックの音が聞こえた。
誰かがこんな夜遅くに訪れたらしい。

「……誰だ」

 扉の鍵を開けて夜分の来訪者の顔を確認する。
……驚いた。
03/23 05:47
[N08A3]
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◆[46]無名
「誰だ、は挨拶ね」
「リティ姉か。こんな時間にどうしたんだよ」

 珍しい。
リティ姉から俺の部屋に来るなんてなかなかあるもんじゃない。

「別に大した用じゃないけど……大丈夫?」

 その言葉に思わずくらっとした。
大丈夫?と聞いてくるのは完全にどこが悪いか分かった上での質問だ。

「参ったな……表に出してるつもりじゃなかったけど」

 つい、と視線をリティ姉から逸らす。
あぁ、そうだ、恥じるべきことなんだ。
強くたれ、気高くあれ、雄々しくあれ、そう、自分に言い聞かせた日のことを思い出す。

「ティアと何年一緒にいると思ってんの?私に隠せるわけないじゃない」

 あぁ、そうだなと答えて背中を向ける。
ダメだ、つい甘えてしまいそうになる自分がいる。
彼女になら弱い部分を見せても良いと思う自分がいる。
ダメだダメだ。
そんなことは許されない。
俺が許さない。

「もうちょっと……肩の力を抜きなよ」

 ふわり、と何か柔らかい感じがする。
あぁ、俺は今、後ろから抱き付かれているらしい。
辛い。
俺は他人に優しくされて良い人間じゃない。
クソッタレのゴミクズだ。

「悪い……今日は疲れたから、寝る」

 そうしてリティ姉を扉の向こう側まで送って俺は布団に潜った。
暗闇の中で自分の手を眺める。
……こんな手で抱き返せるわけないよな。
意識が落ちるように沈んでいく。
くらり、最後に少し“あの光景”が見えた気がした。
03/23 05:47
[N08A3]
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◆[47]無名
 燃えてる世界で私は目覚めた。
理不尽な抗いようもない竜巻のような暴力に街が襲われた。
世には理不尽を打ち砕く正義の味方などいなく、弱者を助ける英雄はいなかった。
 私は必死に這いずりまわる。
せめて逃げ出そうと。
家族、友人、隣人だったものは出来るだけ見ないようにして逃げる。
かつて街を動きまわり街で騒ぎ泣いたり笑ったりしていたそれらは、もう物言わぬただの肉塊。
 そうして、私は見つかった。
目の前には黒い化け物。
漆黒の鎧に身を包み剣をもった何か。
人を笑いながら殺す魔物。
それは、にやりと口を歪めた。
 やっぱり正義の味方なんていないんだ。
 やっぱり英雄なんていないんだ。
 私は剣が肉を切り裂く音を、聞いた。
02/02 11:52
[N08A3]
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