怖い話投稿板

[返信][更新][]
[][検索][HOME]
ゼロサム
盆の踏切 Rev.2.0
十年以上も昔の話だ。
会社の先輩であるAさん、俺と中学以来の友人で心霊スポット探検を同じ趣味とするBの三人で
盆休みに有給をプラスして十一日間の北海道旅行を敢行した。
車一台、バイク一台
むさ苦しい野郎だけの
全日程がほとんど、キャンプ場での野営という貧乏旅行プランだったが、
俺達は素晴らしい旅になるだろうと
胸をはずませていた。


07/11 10:48
[PC]
[編集][コピー]
▼[13]ゼロサム
最初に俺を呼び止めた…アレを見たライダースーツの男とBが困った顔をしている。
アレ…だからな…
変な人間に思われたくなければ上手く誤魔化せと二人の表情が物語っている。
しかし、知りたいと言うなら…
別に教えても差し支えないんじゃなだろうか。

「エスクードのタイヤにな…どっちも前輪のタイヤに…
 地面から首だけ出した女二人が歯を剥き出しにしたすごい形相で喰らいついてた」

迷信とか言われているが、塩と米と清酒って案外、ああいうのに効くもんだな…
と、言葉を繋げようとしたのだが…
俺以外…踏み切りを背に立つ俺以外…
一瞬、人を馬鹿にしたような気の毒な人間を見るような顔をしたあと
下顎が地面まで落ちるのではないかと心配になるほど開け、
零れ落ちるほど目を大きく見開く驚愕の表情となった。
それから声にならぬ悲鳴をあげ蜘蛛の子を散らすように
我先にとヘルメットを被る暇も惜しんでバイクに跨ると
一目散に踏切から走り去ってしまった。

「なんなんだ?」

残っていたBと一番初めに俺へ話しかけてきたライダースーツの男が

「う、後ろ…後ろ!!」

顎で俺に背後を見てみろと促す。

「俺は志村じゃねーよ」

振り返ると、先ほどエスクードが停まっていた踏切…
低い位置で何かと視線が合った。
全身の毛が逆立ち、背骨を悪寒が一気に駆け抜ける。
せっかくの獲物を
俺の手によって逃がされてしまったからだろうか…
怨めしげに
ガチガチと歯を噛み鳴らす女の生首が
レール上に二つ並び
血走る瞳で
俺を睨みつけていた。






(了)
07/11 11:31
[PC]
[編集][コピー]
▼[12]ゼロサム
車が停まっていた場所…アレは消えたか、地に潜ったか姿がない。
気になって確かめに行こうとしたところへ、一台のバイクとライトバンがやってきた。
車から下りたのは制服を着た駅員、その手には一升瓶、生米と粗塩があった。
踏切内から車が移動できた顛末を俺が駅員に説明する。
当事者だからな
話を聞いた駅員はにっこりと俺に微笑み

「グッジョブ!」

持参してきた一升瓶をご褒美だと俺に差し出す。
北海道の銘酒『北の勝』だった。
駅員が去り、
女子大生二人が素敵な谷間がバッチリです!な深々と頭を下げるお礼をして去っていった。
あの光景…二つ並んだ谷間…あれは北海道旅行最高の思い出になるだろう。
全員でお礼と万歳を叫びながらエスクードの後姿を見送った。
美しいお嬢さんとつかの間の邂逅は終わり、
踏み切りにはむさ苦しい男だけが残っている。
あんなに光の満ちていた世界が…
こんな色褪せた荒野に変ってしまうとは…
何だか、とてもたそがれたい気持ちになった。

「あの」

日本酒ラッパ飲みでもしようかなと思ったところへ
さっきのとは別のライダースーツを着た男が俺に話しかけてきた。

「あれは一体、どういう訳だったのですか?」

疑問だったのだろう
どうして酒と米と塩でエスクードを動かすことができたのか

「それだ」「それそれ、俺も聞きたかった!」「俺も!」「俺も!」「俺も!」「俺も!」

一升瓶片手に持つ俺の周りに野郎共が詰め寄ってきた。
07/11 11:30
[PC]
[編集][コピー]
▼[11]ゼロサム
「おい、車が動くか試したいのだが…」

俺は女子大生に声をかける。
眉間に皺を寄せ、困った顔して二人は頷いた…
突然、塩やら酒やら撒いて怪しい呪文を唱えたからな
二人からすれば俺を危ない人間に映ったことだろう。
まぁ、自分でもおかしいと思うよ
エスクードに取り付けてあった牽引ロープをはずして
女の子二人が乗り込んだエスクードにゆっくり前進しろと指示を出す。
運転席でハンドルを握る女の子が頷き…
アクセルを踏む。
全員が固唾を呑んで見守る中
ゆっくりと
エスクードは前進を開始した。
どよめきが起こる。
ただ車が前に進んだだけなのだが…
エスクードは無事に踏み切りを渡り終えた。

07/11 11:30
[PC]
[編集][コピー]
▼[10]ゼロサム
面倒くさいので一人でやることにした。

「『ウラン』…って何があるんです?」

女子大生が訝しげな表情で俺を見てくる。

「気にするな、これを車の下に撒いたりするからな…
 酒臭いと思ったら後で洗車してくれ、そこまでは面倒見きれんし」

「は、はぁ…」

彼女達の顔には不安と困惑と疑念がない交ぜになった複雑な表情が浮いていた。
後は何も答えず、俺は塩、米、酒の順で車の四隅に撒いていく。
それからエスクードの前に出て

「掛まくも畏き伊邪那岐大神筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に禊祓へ給ひし時に成りませる
 祓戸大神等諸諸の 禍事罪穢有らむをば祓へ給ひ清め給へと白す事を聞食せと恐み恐も白す」

すぐ隣が神社なもので、ガキの頃から門前小僧の何とやら、
聞きかじった祓詞なんかを唱えてみる。
塩も粗塩ではなく、イオン交換膜製塩法で作られた食塩と呼ばれる塩化ナトリウム…
米も男所帯の旅だし、いちいち研ぐのは面倒と用意した無洗米…
酒は俺が持ってきた酒の中で一番値段が安いヤツ

しかし、
やってはみるもんだ。
なにやら、空気が和らいだような…周囲から緊張感が消えたような…気がした。

07/11 11:29
[PC]
[編集][コピー]
▼[9]ゼロサム
「一応、最寄駅へは人をやっているんですよ…
 時間的に列車がいつ来てもおかしくないですから…」

「そつがないな…」

俺は話に区切りをつけ、エスクードの脇でペタンと座り込んでるBに呼びかけた。

「おいB、『ウラン』なんか眺めてないで、これ撒くの手伝え」

「『ウラン』違う!こ、これ…全然!『ウラン』と違うから!!絶対『ウラン』違う!!」

あー煩い






07/11 11:28
[PC]
[編集][コピー]
▼[8]ゼロサム
怪獣●進撃に出しても遜色ない絶叫だB。
俺は旅の荷物を満載した後部座席から、
こっちに着いてから飲もうと持参した日本酒の壜と生米、食塩を探す。
これは使うのもったいない…これは飲んだことがないからダメだ…一番安い日本酒を見繕う。
塩とコメを入れた袋を左手に、右手に持った『剣菱上撰』の壜を肩に担いで立ち往生している
エスクードへ向かう。

「ど、どうするんです?その日本酒」

ライダースーツの男がアレを見た衝撃よりも好奇心が勝ったらしく俺に問いかけてきた。
女子大生二人も背景となったモブ共も何が始まるのかと興味津々で見守っている。

「まぁ、お清めでもしてみようかと思ってな」

「お…き…よめ?」

「気休めだ、気休め」

「きやす…め?」

お清めの意味が通じてないらしいライダースーツの男。

「それでダメだったら最寄の駅へ駆け込んで駅員と相談するしかない」

彼は蒼白となったまま俺をまじまじと見る。

「カラス神父でも地獄先生ぬ〜●〜でもないただの素人だからな、俺は…
 上手く行ったら御喝采って感じか」

正直、効くのか効かないのか…分からんよ
昔からお清めと言えば米と塩と酒が定番だからな。

07/11 11:27
[PC]
[編集][コピー]
▼[7]ゼロサム
「凄いな北海道、本気で『ウラン』を土産に友人宅を訪れる女子大生がいるとはな」

Bの頭の中では『ウラン』決定らしい。知らぬが仏というか何と言うか…

「B,お前もちょっと行ってエスクードの下覘いてこいよ」

「なんでだよ?『ウラン』の重さでタイヤが潰れてるとことか別に見なくていいだろ?」

正直に言ったらこいつ絶対に行かないもんな。

「まぁ、何事もいい経験だ、見ておいて損はない。それに車の横には女子大生いるぞ」

「Semper fi! Do or die!Gung ho!Gung ho!Gung ho!!」

Bは車を飛び降り俺に向かって最敬礼をとった後、
エイ●マンや0●9、いつの間にか消えた『巨●の星』の速水も真っ青な勢いで
エスクードに向かって走っていった。
残念だなB、女子大生は二人共にキュロットスカートをお召しだ。
少しして

「あんぎゃぁあああああああああああああ!!」

「Bにも見えたか残念賞」

07/11 11:27
[PC]
[編集][コピー]
▼[6]ゼロサム
「な、なぁ…ちょっと来て一緒に見てくれないか?」

俺はすぐ傍にいたライダースーツの男を手招きして呼んだ。

「俺と同じ格好になって車の下を見てくれないか?」

「さっき見ましたけど、別に変わったものは…」

気温の所為などではない…冷や汗を顔に浮かばせる俺を見て…
冗談ではない真剣さを感じたライダースーツの男は…
俺の横で四つん這いになり…
俺が指差す先を見て

「斧(よき)琴(こと)菊(きく)!!」

意味不明な事を叫び、四つん這いのまま、
それはもうTVジョッキーで白いギターとベルボトムジーンズが貰えるくらいの
もの凄い勢いで後退りした。

「なななななななななななんですかあれはぁあああああ!?」

泣くなよ…
車から下りた女子大生二人が何事かと見つめている。

「あんたに見えたのだから俺の幻覚や見間違いじゃないことは証明された訳だ…」

全員が注視している中、俺は立ち上がってバジェロの運転席へと戻る。

「どうした、やっぱり『ウラン』積んであったか?」

事情を知らぬBが暢気に話かけてきた。

「『ウラン』…まぁ、似たようなもん…だな」

07/11 11:26
[PC]
[編集][コピー]
▼[5]ゼロサム
「『ウラン』とか重金属をエスクードの中に目一杯詰めてんじゃないのか!?」

助手席に座ったBが呆れ返る。
どこの女子大生が友達の家に行くのに『ウラン』を山積みにしたりするよ!?
タイヤに何かが食い込んでるとしても、それでも幾らかは動いてくれる筈だ。
某瞬間接着剤のCMだってこれほど大袈裟にやれば視聴者からクレームが来る。

一体何が…俺は首を傾げながら車を降り
踏切内に立ち往生しているエスクードの脇まで行ってしゃがみ込む。
車の下に何かないか…

「……………………」

タイヤを何かがガッチリ噛んでいないか…

「あ?」

もっとよく見ようと四つん這いになって車の下を覗く俺の目に…

「ガ、ガッチリ噛んでるし!?」

ええと、俺…目がどうかしたんだろうか…
昨日の今日であんなもんが見えるとは…

07/11 11:26
[PC]
[編集][コピー]
▼[4]ゼロサム
「まぁ、とりあえず引いてみるか…いつ電車がくるか分からんし」

「お手数かけます、宜しくお願いします」

そう言う訳で、さっそく俺の車とエスクードの間にあるバイクをどかしてもらって、
パジェロをUターンさせて、
ライダースーツの男の誘導に従いバックで、エスクードの後ろ…
車の尻同士を向かい合わせにして停めた。
それからロープの取り付けにかかる。

山の麓近くに住んでいるため、
たまに脱輪して動けなくなっている車を救助したりしているから
こんなシチュエーションには慣れている。

それに見目麗しき女性の手助けをするとなれば俄然、
張り切ってしまうのは仕方が無い事だろう。
札幌にある大学の生徒さんで…友人の家へ遊びに行く途中だったんだとか…
こんなの何てことはない、エスクードに二人を乗せ
俺は自信満々で…意気揚々で…エスクードを牽引した…しようとしたのだが…

「なんてこった…」

ビクともしない…
なんのテンションも掛かっていない筈の、平地に停められたエスクードを
俺のパジェロがどんなに頑張っても1ミリすら移動させることが出来ないでいる。
これ以上は危ないというところまで踏んばってみたのだが
やはり、エスクードは根を深くおろした巨木が如く微動だにもしなかった。
直4、2800ccインタークーラーターボディーゼルの125馬力で引っ張っても…

無理…ともなると…
あとはトラックか重機、戦車が必要だ。
07/11 11:25
[PC]
[編集][コピー]
▼[3]ゼロサム
目に飛び込んできたのは道を塞ぐように停められたバイクが十数台、
その向うにライダースーツとTシャツジーンズの人垣ができている。
何か事故でもあったか?
徐行しながら停められたバイクの前までゆるゆる進んでいくと
ライダースーツを身に纏う一人の男が、俺達の接近に気づいて右手を挙げる。
人垣の向うに警報機と上がったままの遮断機が見えた。

それから、踏切内に停まる一台のエクスード。
エンストか?
ライダースーツの男が運転席側へやって来た。
サイドウインドウを下げて俺は何事かと尋ねる。
ライダースーツの男は車の横で不安そうな表情で立つ
二十代前半位の女性二人を指差し

「あの二人の乗る車が、踏み切りを渡っている途中で急に動かなくなったそうです」

やはり、エンストか…電車が来たら大変なことになる。
牽引ロープを持ってきていると告げると

「助かります!しかし、エンストでも…故障でもない…みたいなんです」

「どういうことだ?」

「エンジンはかかるし、アクセルを踏めばタイヤが地面を噛む感触もあるから
 ギアの故障でもないようです。
 もちろん、サイド引いたままでしたギャグじゃない事も確認もしています。
 それなのに、この人数で力一杯押してもまるで動かないんですよ」

この人数ならパンクでもしてない限り、
1t程度のエスクードを踏み切りの外へ押し出すだけなら容易のはずだ。

07/11 11:25
[PC]
[編集][コピー]
▼[2]ゼロサム
首都圏では絶対に見ることができないどこまでも澄んだ青い空、
地平線が見えそうなくらいどこまでも平坦で緑あふれる大地
どこか懐かしい気持ちにさせられる…
これが…北海道…
苫小牧の市街地を離れ、田園風景の中を行く頃には、
AさんのBAJAはずんずん先に進んで見えなくなっていた。
車と違い、路肩や車の横をすり抜けていけるからな
目的地の富良野まで追いつくことはできないかもしれん…

しばらく車を走らせてると平坦な大地は終わりを告げ
道路の右側に木立が目立つようになってきた。
木の連なりは林となり、森となり…標高はそんなでもないのだが
犬が伏せたような、こんもりと緑に覆われた山が迫ってきた。
ナビ役のBが地図を調べながら指示を出し、
山の方に向かって道を右折、
木々に日光が遮られるようになると気温は一気に下がって
窓全開のTシャツ姿では肌寒く感じるようになった。

「一度盆地になって、そろそろ踏切が見えてくる」

Bが顔を上げずに告げる…ゆるい左カーブの先…

「あ!」

「おお!?」

慌ててブレーキを踏む。
助手席で地図とにらめっこしていたBが思い切り前のめりになった。
07/11 11:24
[PC]
[編集][コピー]
▼[1]ゼロサム
予定では、上陸した最初の夜を港の片隅にテントを張って過ごす計画だったのだが…
いざ、フェリーを降りると周囲は猛烈な嵐の真っ只中…
これでは流石に夜営は無理と諦め、民宿を探して泊まろうということになった。
電話ボックスでタウンページに載ってる苫小牧市内の民宿へ片っ端からかけまくる…
運良く、二軒目でヒット。
港近くで一軒、夜も遅いにも関わらず、俺達を受け入れてくれるところが見つかった。
雨風を凌げる屋根の下、風呂へ入り、布団の中で寝ることが出来た。
夜が明けると、苫小牧は台風一過の雲ひとつない青空。
風は強いが上々の出発日和となった。
一夜の宿を貸してくれたおばちゃんたちに見送られ、
まだ路面が濡れている国道へ出た俺達。
これから、オフ車仲間で有名な100キロ林道を走破し、
炭鉱とメロンと映画祭で有名な夕張市を抜けて、本日の宿営地となる富良野を目指す。

出掛けの一極目は旅が始まる前から決めていた。
ステッペンウルフの『Born To Be wild』…

気分は映画『イージー・ライダー』
もちろん、俺がキャプテン・アメリカことピーター・フォンダでBがデニス・ホッパー。
途中でジャック・ニコルソンを拾うのだけは勘弁だ。
07/11 11:22
[PC]
[編集][コピー]
[][次][前]

[返信]
[一覧に戻る]
[HOME]

本日:59
前日:29


mobile-bbs