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ゼロサム
盆のオホーツク
十年以上も昔の話となる。
会社の先輩であるAさんと中学以来の友人Bと俺の三人で盆休みを使って
北海道旅行へと出かけた。
車一台、バイク一台…むさ苦しい野郎だけの貧乏旅行…
それでも、素晴らしいものになるだろうと
胸をはずませていた訳だったのだが…
上陸以来、立て続けに起こる怪異に戦慄した俺達は
畏怖の意味を込めて『北海道』を『北怪道』と呼ぶようになっていた。







07/18 02:01
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▼[8]ゼロサム
ただ、Aさんが一人だけ
人生初めてとなる金縛りを体験することとなった。
指ひとつ身体を動かすことが適わず、声も出せない…呼吸するのもやっとで、
視覚と意識だけは、はっきりしている。
天井に吊るしたカンテラの底が見えた。
テントの外…気配を感じる…すぐ近くに誰かいる。
取り囲まれている…な…
もちろん一人や二人ではなく…十人から数十人…それ以上も…
何十人分もの顔をテント生地に押し付けてきた。
生地を突き破ってやろうかという勢いで、
金縛りで動けないAさんへ向けて、ぐいぐい迫ってくる。
布地越しでも目鼻立ちから表情までもがはっきり分かった。

頭蓋骨みたいなものもいれば、
顔の半分を欠損しているようなもの、下顎が無いものや、
鼻が削られて平らになってるものもいた。
どれも断末魔の凄まじい形相…
顔…顔…顔…
デスマスクの群れが眼前にまで迫った時、
Aさんの意識は視界ごと暗転した…

朝飯に一切手をつけず、
Aさんは憔悴しきった顔で
昨夜起きた恐怖体験の一部始終を語ってくれた。




本日は網走から国道243号線に乗り美幌峠越えて屈斜路湖を目指す。
屈斜路湖にはスコップで穴を掘ると温泉が湧き出すと言う砂湯があるそうだ。
そして、屈斜路湖と言えばクッシー!!

「クッシーを見ずして何が北海道旅行か!!」

ここまで毎日、異形と遭遇してきたのだ…
屈斜路湖で遭遇する異形は
絶対、クッシーであるに違いない。
『キン肉マンGo Fight』を口ずさみながらハンドルを握るBの脇で
俺は握りこぶしを固め武者震いするのであった。



(了)

07/18 02:07
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▼[7]ゼロサム
「Aさん」

「なんだ?」

マグカップを手に持ち口へ運ぶAさん…
俺はもうすっかり酔いから醒めちまってる。

「堤防の向こう…あっちはオホーツク海だから…人…歩けないから…」

「ブッ!!」

「うわ!きたねぇ!!」

口に含んだ焼酎をグレートカブキみたいに俺へ吹きかけやがった。
やっとおかしなことに気が付いてくれたか…

「なんだと!?
 今夜もか?また今夜もなのか!?
 おい、塩!塩はどこだ!?」

俺の調味料箱を開けて中を引っ掻き回しはじめるAさん。
晩飯のおかずを買出しへ行った時に買い足しておいたのだ。
こんなこともあろうかと思うのではなく…きっと今夜も出るだろうと…
テントの出入り口と四隅、天井部に吊るされたカンテラの笠へ、
三人で手分けして塩を円錐状に盛る。
だんだん手馴れてきたな。
その効果があったのか…は、分からないのだが…
俺とBには何事も起こらず朝までぐっすりと眠ることができた。


07/18 02:07
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▼[6]ゼロサム
「なぁ、堤防の向こう側から
 たくさん人がこっちに向かって歩いてくるんだけど
 お盆だし、あっちでなんか祭りでもあったのか?」

「堤防の向こうってなんですか?」

トイレからの帰りに酔い覚ましだと堤防へ登ったAさんは
真っ暗なオホーツク海を眺めたそうだ。

「それがな、真っ暗な中…かなり遠くに
 街の明かりみたいにキラキラと赤や黄色の光が灯っていて…何市なんだあれ?
 そこからずらっと…青白く光る人間が列を作って、
 こっちへ向かって歩いてくるんだよ。
 だから、あっちでやってる祭りから帰ってきた連中だろうと思ってな」

明らかにおかしな事を言ってるぞAさん。
酔っていて頭が回ってないのだろうか

「堤防の向こうって何もないですよ?ある訳ないじゃないですか」

「あ?あるだろうよ、あっちだって、あっち!!」

「あっちは北ですよ?」

「なんか分からんが、ぞろぞろとこっちに向かって人が来るんだよ!」

マグカップに焼酎を入れてお湯割りを作るAさん。
俺が家から持ってきた梅干を落とし、マドラー代わりの割り箸でかき混ぜる。
だめだこりゃ…俺とBはげんなりして顔を見合わせた。
Aさん全然分かってない。


07/18 02:06
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▼[5]ゼロサム
俺は廃墟で手に入れた刀(エムシ)を膝に乗せ、鞘から刀身を抜き出した。
鞘や柄などの拵はアイヌ民族独特の文様が施されているが、刀身は日本刀そのものだ。
アイヌ民族は製鉄技術を持たなかった為、
刀身と鍔を日本本土から輸入して拵えのみを製作していた。
また、拵から刀身まで1セットの完成品で輸入されたものはイコロ(宝物)と呼び、
エムシもイコロも神事の際に用いられた。
魔除けとして扱われていたりしたんだよな。
日本刀にはそれほど詳しくはない俺だが…
磨きぬかれた刀身の美しさに思わず見惚れてしまう。
刃長は定寸の二尺三寸五分よりはかなり短い。
二尺あるかどうか…脇差…大脇差の部類に入るだろう…
それにしても、なんという貫禄…
風格というのか…
棟の重ねが薄く鎬筋高く、平肉が付かない造り込み
地は板目肌が流れ肌立ち鎬地柾目となり白け映りが鮮明に立つ。
互の目尖り刃を交え、柔らか味のある匂口…

「良いものなのでありますか?」

「関刀だよ……詳しくは知らんけど」

飲むのを止めて美しい刀身に見入っていると
Bがウラガン的な台詞で訊いてきた。
俺はマ様的台詞で受ける。
そこへ、出入り口のファスナーが外から押し上げられ、
怪訝そうな顔をしてAさんが戻ってきた。


07/18 02:06
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▼[4]ゼロサム
「ションベンしてくる」

ほろ酔い加減のAさんがテントを出て行った。
夏とは言え北海道の夜は冷える。
ここはオホーツク海が目の前にズドーンだから、寒くて当たり前だ。
温まるには酒が欠かせない。
ならば、酒を飲まなくてはならない。
ということで
今夜も例のごとく三人でささやかな酒宴が始まった。
廃墟で一夜を過ごした昨夜でさえも酒盛りは欠かさなかったのだ。
ストーブに火を入れ、ケトルで湯を沸かす。

「今夜はお湯割りパーティだな」

AさんとBは焼酎、俺はウイスキーをお湯割りにした。
つまみは晩飯の残り…ホッケの塩焼きにホタテの網焼き、茹でたホッキ貝…
明日の行動予定を冗談を交えながらゆるゆると決めていく。
まるで、秋の夜長の風情だな…
波の音を聞き、過ぎていく時間を楽しみながら…静かに酒を飲む。


07/18 02:05
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▼[3]ゼロサム
俺は納屋へ逃げ込み、AさんとBに助けを求めたが
起きる気配がまるで無し。
戦うしかないと…
ゲートオブバビロンみたいにわんさか壁へ掛けられた鍬や草刈鎌などの農機具を
掴んでは投げ、掴んでは投げ…
半狂乱で人外相手に大立回りを演じたのだったが…
気が付けば朝で…彼等が命を絶った痕跡が残る母屋の広間で
大の字になって寝ていた。
手には何故かアイヌの民が使っていた刀(エムシ)が握られており、
壁や柱に立て掛けられていた畳がズタズタに切り刻まれていた。





07/18 02:03
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▼[2]ゼロサム
昨夜、青い湖からの帰り道…
俺達はパーフェクトと言うかエクセレントと言うか完全に迷ってしまった。
日が落ちて、周囲は真っ暗闇…
目印などない原野な上に、自分のいる場所すら分からず地図も頼れない。
うかつに動くこともできず、
どこかで朝になるのを待つしかないと泊まる場所を探した訳だが…
見つけたのは農場らしき廃屋…
熊に怯えて道端にテントよりは数倍マシと諦め、
そこで一夜を過した。
さすが廃墟だ。
そこでまた、怪異に見舞われた。
ただし、俺のみ…


納屋を借りて中にテントを張って寝たのだが…
夜中、尿意で目が覚めた。
納屋を出て庭の隅で用を足した俺の前へ、
この家に暮らしていた家族と思われる6体の異形が現れた。
夫婦らしい中年の男女…老爺と老婆はどれも首にロープが巻きつけられ…
どれもこれも生者では敵わぬ凄まじい形相をしていた。
眼球は飛び出し、舌が顎に付きそうなほど伸びた婆さんは特にヤバかった。
残り二人は子供で首の骨が折れているらしく終始…俯いたままで…
一家心中でもしたのだろうか…
憐れんでる暇も無く、
奴等は無言で俺に追い縋ってきた。
生きている者が憎くて仕方無いのだろうか?


07/18 02:03
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▼[1]ゼロサム
俺達は予定の一日遅れでオホーツク海にやって来た。
前日、美瑛町にある幻と言われる青い湖を見に行き、
その帰り…道に迷ってどこぞと知れぬ廃墟で一夜を過す事となった。
朝、なんとか美瑛町中心部まで戻れて旅を再開。
まず、旭川市へ向った。
それから国道39号線と333号線で石狩川、湧別川に沿って東へ走り、
Bと運転を交代しながら大雪山とチトカニウシ山の間を抜け、
遠軽から国道242号線で北上…
そしてついに、湧別町にあるサロマ湖西岸、砂嘴にあるキャンプ場へ辿り着いた。
長かった。
本来ならば旭川ラーメンを食し、層雲峡に立ち寄り温泉に浸かる筈だったが
廃墟を出て美瑛まで戻るまでに時間を浪費した為、そんな余裕は無かった。
今は風呂入って飯食って酒飲んで寝たい…それだけだ。
疲れた。



07/18 02:02
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