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ゼロサム
盆の渡海 Rev.2.0
十年以上も昔の話だ。
会社の先輩であるAさん、俺と中学以来の友人で心霊スポット探検を同じ趣味とするBの三人で
盆休みに有給をプラスして十一日間の北海道旅行を敢行した。
車一台、バイク一台
むさ苦しい野郎だけの、
全日程がほとんど、キャンプ場で野営という貧乏旅行プランだったが、
俺達は素晴らしい旅になるだろうと
胸をはずませていた。

07/11 10:38
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▼[8]ゼロサム
30分後、
俺達はやっとフェリーに乗り込むことができた。
大時化であるにも関わらず大して揺れの感じない船内…
Aさんと合流して航海中、
俺達の居住スペースとなる二等船室へ向かう。

「カタシハヤ、エカセニクリニ、タメルサケ、テエヒ、アシエヒ、ワレシコニケリ」

乗船通路から乗り込んだ
あの百鬼夜行…
異形達はどこにいるのか…
どこに潜んでいるのか…
出港して北海道に着く間、
俺とBは暇があると船内をうろつき異形怪異の姿を探してみたのだが…
彼等と遭遇することはなかった。






(了)
07/11 10:44
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▼[7]ゼロサム
運転席の窓を閉め…濡れた顔を拭わずBに振り返り…訊ねる。

「ここまで来て…異形が怪異が怖いなんて理由で帰れるはずないだろ!?」

彼も恐怖と混乱から見事に立ち直ったようだ。
ならば、俺がそれくらいで北海道行きを止めるはずがない。
分かっていての…己を奮い立たせる為の確認だ。
それからしばらくして車の列が再び動き出した。
見えている間中、
おかしな奴等の乗船はずっと続いていた。
まさしく百鬼夜行だな…
彼らには彼らの…船で北へ向かう理由や目的があるのだろう
俺達にも目的がある…
このフェリーに乗って北海道へ向かう…








07/11 10:43
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▼[6]ゼロサム
ハンドルを握り絞め忘我の境地で連絡通路を見上げる俺の右側…
運転席側の窓を叩かれた。
我に返る
危なかった。
あの異様な光景に魅入られていた。
完全にあの雰囲気に呑まれていた。
見てみれば、バイクに跨ったままの見知らぬライダースーツ姿の男が
ヘルメットのバイザーを開けて何か叫んでいる。
必死な様子に、雨が入るのも構わず窓を開けた。

「あ、あれ!あれ見たか!?なんだあれは!?」

誰にも見えるものなのか?

「わからん!だが、俺達にもちゃんとあれが見えている!」

「船の中で何かイベントがあるとか俺は聞いてないぞ!?」

「いや!あれはそんなモノじゃない!!」

雨風の音で掻き消されないようにライダーに向かって俺は怒鳴って返す。

「毎年、盆のフェリーで海を渡っているのに…こんなことははじめてだ!」

ライダーは今年の渡航は諦めたと叫んでバイクの向きを変え、
逃げるようにして去っていった。
遠ざかっていくバイク…ライダーの背に向け溜息ひとつ…
彼が話しかけてくれたお陰で
自ら生み出し育て増殖させた恐怖から逃れることができた。
怖いと思う気持ちは自分が作り出すものだ。
それを克服して勇気に変えて、
幽霊が度々目撃されるという廃墟、廃屋、自殺の名所、殺人現場へ
嬉々として向かうのが
俺達が趣味としている心霊スポット探検だ。
今…目撃したのは少々、
レベルが斜め上だったがな

「さて、俺達はどうする?」



07/11 10:43
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▼[5]ゼロサム
視る。
フロントガラス越し…


「な、なんだあれは!?」


俺の横でB、声をあげた。
震える声、
震える指で…頭上を…
俺も見ていた…
乗船用の桟橋を渡る乗客に混じり…
異形…

赤ら顔をした…身体は人間サイズなのだが…頭部が不自然に巨大なモノが…

「う…」

一体だけではなかった
青い…背丈が…連絡通路の天井に付きそうなくらい…背の高い
青白く細長い…首の長い…裸体…黒髪が蔦の様に絡みつく…水死体みたいなモノ…
それから、まわしをつけた力士スタイルをした黒い肌の大兵肥満の牛頭…
国民服を来た巨大な大根としか思えないモノ…
水干を纏った骸骨…
煌びやかな胴丸で身を固め太刀を佩く直立歩行する緑色した蛙みたいなモノ…
普通の人間に混じって
異様な姿をしたモノ達が
次から次へと現れ
桟橋を渡ってフェリーへ乗り込んでいく。
乗船しようとする客達…
誰も隣にいるのが異形であることに気づいていない…
異形の一団が過ぎると
次に現れたのが生々しい傷跡を晒した…ひと目で生きていないと分かる…
五体のいずれかが欠損した…人間の群れがフェリーに向かって行進していく。

『バンバンバン』

07/11 10:42
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▼[4]ゼロサム
のろのろと、車はフェリーに向かって進んでいく。
ターミナル二階からフェリー間に架けられた乗船用の通路が見えてきた。

乗客たちが続々と列を途切れさせることなくフェリーへと乗り込んでいく。
車組よりも早く乗船出来るのか…
俺達だってもうすぐ自分の番が来て、フェリーに乗ることが出来る…
そして、二十時間後は念願だった北の大地を踏みしめることが出来る。
否が応にも、期待で胸が高まった。
のだが…

乗船を目の前にして
車列の歩みが完全にストップした。
そして、いきなり
なんていうのか…
目よりも身体が先に…
それよりも聴覚に異常…
あれほど激しかった雨音が急に静かになった…

嵐が止んだ?
これから台風が東日本を縦断していく話だ
それはありえない。
窓の外に目を向ければ横殴りの雨が降り続いている。
試しに声を出してみる…
みようとしたが声が出ない…妙な喉の渇き…
いや、目でも異常を捉えていた…
乗船用通路…人の列の中…焦点がぼやける

肌でも…

なにやら禍々しい…おどろおどろしい…怪しい気配と刺す様な冷気…
自分でも気付かない内に
俺は恐怖に呑まれていたようだ。

思考以外…

五感全てが異常を察知し
全力でその存在を拒絶たくなる程の怪異が目の前にある…
拒絶し韜晦していれば
それは何もせずに去っていくものなのだろうか
それほどの恐怖を撒き散らす怪異が…
なけなしの勇気を振り絞って仰ぎ見る。






07/11 10:42
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▼[3]ゼロサム
エンジンは掛けたまま…
Bはフェリーの中で読む為にと買っておいた井上靖を読み始めた。
伊勢から江戸へ船で向かう途中で嵐に遭い、ロシア領のアムチトカ島まで流され…
ラストで主人公は日本に帰れたが鎖国政策の下で幽閉されてしまう話…

「史実では比較的、自由な暮らしが出来てたらしいから…縁起が良いと言えば…
 まぁ、いいか…」

異常な速さで流れていく黒雲が港の明かりで照らし出される…、
雨はますます激しく大粒となり、
車体がへこむのではないかと思うほどの音を立て叩きつけてくる。

巨大なフェリーとターミナル…
煌々と明かりは灯っているもののやけに心細げに見えた。

ラジオから流れる気象情報に耳を傾ける俺と本を読むB
会話も少なく…ひたすらその時が来るまで待つ。
50分ほど経過して車列が
やっと動きだした。
車両の搬入時間となったのだ。
07/11 10:41
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▼[2]ゼロサム
この嵐の中、フェリーは出航できるのか?
胸の中で、不安も増していく。

市街地の渋滞を抜け
ダークグレーから暗黒へと闇を濃くしたフロントガラスの先
煌々と明かりを灯して出港の準備に取りかかるフェリーを両眼で捉えた時、
安堵の溜息をつくことが出来た。
休航はない…

港はフェリーが出ると信じて疑わなかった人間の乗る車が長蛇の列を作っていた。
最後尾に車を着けて、
後は列が動き出すまで待つだけとなる。
Aさんは俺達と離れて別の…バイクの列へと向かった。






07/11 10:41
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▼[1]ゼロサム
フェリーで北海道に向かう当日、
天気予報通りに台風が来た。
それもフェリーと同じ進路で
関東へ上陸して後、東北地方を縦断して北海道へ向かうという
最悪なルート…

Aさんは買ったばかりのXR-BAJA、
俺とBは俺のパジェロで
雨風が強くなる中、港へ向かった。

未だ関東には上陸していない筈なのだが…
フロントガラスに叩きつけられる雨粒を、
ワイパーが忙しなく脇へ掻き出し
路面に溜まった雨水を
4M40型 直列4気筒SOHCターボディーゼルエンジンの恩恵を受けた
ごつい四本のタイヤが撥ね飛ばしていく。
旅を中止するという選択肢を俺達は持たなかった。
道路の全てが通行止めにならなければ…
フェリーが休航にならなければ…
誰かが無理矢理にでも止めてくれなければ
足を止めることはない。
前に進むことしか俺達は考えてなかった。
日が落ち、
雨風は勢いを増して
ますます視界が悪くなる一方だ。

07/11 10:40
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