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ゼロサム
盆の原野
十年以上も昔の話となる。
会社の先輩であるAさんと中学以来の友人Bと俺の三人で
盆休みを利用し、北海道旅行へと出掛けた。
車一台、バイク一台
たとえ、むさ苦しい野郎だけであろうとも
たとえ、貧乏であろうとも
素晴らしい旅になると
胸をはずませていた訳だったのだが…
上陸以来、立て続けに起こる怪異に戦慄した俺達は
畏怖の意味を込めて『北海道』を『北怪道』と呼ぶようになっていた。





07/18 02:09
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▼[1]ゼロサム
屈斜路湖目指してサロマ湖畔を出発した俺達、
サロマ湖の南岸沿いに網走へ向かっていたはずだったのだが…
気が付けば昨日、湧別へ向かう途中に通った遠軽にいた。
そして、後ろからバイクでついてきてる筈のAさんがいない。
Bに運転を任せて俺は助手席で寝てたから気付かなかった。

「美幌峠の展望台を待ち合わせ場所に設定してるから、まぁ大丈夫だろう」

「このまま南下して安国で国道333号線に乗れば美幌町へ行けるぞ」

「網走経由とそれほど距離も変わらないか…こっちは山道だが、それで行こう」

燃料も補給したばかりだから余裕もあった。
それから、北海道へ来て…俺達の距離感覚はおかしくなっていた。
2,30kmならほんのちょっと…
本州であれば100Kmなんて地平線の彼方なのだが、
北海道は1時間もかからずに行けてしまう。
道幅も広く本州の二車線分くらいあり、
急カーブ注意の標識があってもほとんど減速する必要がない。
最初は本土の峠道と同じ感覚でコーナーを進入する手前で減速し、
ヘアピンに備えたのだが…ゆるいゆるい。
進入で速度オーバーのミスを犯しても、路肩も広く確保されているので
難なくコーナーを脱出する事ができた。
逆に、信号が少なく長い直線の道を走っている方が疲れるし、眠くなってヤバい。
思ってた以上にBと運転の交代は頻繁に行う。
緑濃い原野が広がる中を貫く遠軽国道…
ハンドルを握るのは俺…時速120km/hでパジェロをすっ飛ばす。
狭まる視界…国道333号線を走る目の端におかしなものが見え始めた。
左右の道路脇…木立の間に…人がいる…
07/18 02:10
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▼[2]ゼロサム
猛スピードで通り過ぎていく木々の間に…ずっと…人が…
毛髪は薄いのか剃っているのか…見えない…坊主頭…
服は着ていない…下半身に下着だろうか…頼りない一枚のみ…
紙の様に白い肌…背丈はバラバラだが…全員がガリガリに痩せ細っている。

「B…道路の両脇な…木と木の間に上半身裸の男がずっといるのだが…見えるか?」

寝てたのか…膝の上に開いていた地図をたたみ、
欠伸ひとつして右手で目を擦り、助手席側の窓から原生林へ目をやる。
おや?返事がない…

「闇黒舞踏みたいな連中が道路脇にずらっと並んでるだろ?」

「…木…人…木…人…木…休む…休みたい…休ませてくれ?」

「B…どうした?」

「いる…ずっとこっちを睨んでる…なんでこんな山の中に…人がいるんだ?
 そいつらの顔が…なんかそう言ってるような…」

生きている人間で無い事は確かだ。
正面から近づいてくるまでは見えない…のだが…ほぼ、真横になると…いる…
俺には一人一人の表情までは確認できない…
以前、第二次世界大戦でナチスがユダヤ人に行った虐殺…
ダッハウ強制収容所の写真を見たことがある…
堆く積まれた…何の罪もなく殺されたユダヤ人の死体…
収容棟の中で食事も水も殆ど与えられず、蔓延するチフスと餓えによって迎えた死…
壮絶…
あの感じにとても似ている…
07/18 02:11
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▼[3]ゼロサム
「まるで…古事記にある…人が死んだら行くって言う…
 根の堅州国の途中にある…黄泉比良坂の有様だ…」

「俺の目には全員…男…男しかいないと思うのだが…」

「確かに男だけだ…女は一人もいないみたいだ。
 酷い怪我をしているのもいれば…なんだ?身体が腫れあがってるのもいるし
 肩から上が無い奴もいる…銃創を負ったみたいなのもいるな…」

「顔からしてアイヌとはとても思えない…シサム…どうみても本土の人間だな…」

「戊辰戦争で賊軍になった藩の人間が開拓団として送り込まれた話は
 聞いたことがあるけど…一体…なんなんだこいつら?」

奴等は美幌町へ行く間…
ずっと木の間から俺達を睨み続けていた。





美幌峠の展望台でAさんと再会することが出来た。
予定通り、網走経由で来たらしい。
それで、俺たちが遠軽国道で見た怪異のことを言うと…

「俺も途中の踏み切りで変なの見たぞ。
 遮断機が下りて電車が通り過ぎるのを待ってたんだけど…
 線路の中にな目鼻立ちも分からん真っ黒な人影みたいなのが立ってたんだ。
 藤城清治の影絵を知ってるか?
 警報機が鳴る中…
 ざんばらの長い黒髪で赤黒い振袖みたいなのを着てて…女だって…
 でもな、それがよく見たらだらんと垂れ下がった皮膚で…
 電車が来て、そいつを躊躇無く轢いてった。
 通り過ぎた後には何にも残ってなかったな」

どのルートを使っても俺達は怪異から逃げられないというのか…






(了)
07/18 02:12
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