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こげ
落下生語り-ラッカセイガタリ-
「このコロニー『スウィートウォーター』は、
 密閉型とオープン型をつなぎ合わせて建造された非常に不安定なものである…」

なんだかよく分かりませんけど、天之津君が前方を指差しながら、
赤くて大佐で大尉で総帥っぽい人の台詞を宣いました。
今からアクシズを地球にでも落とす気なのでしょうか…

流れる雲に遮られて見え隠れする月の下、白亜の建物が二棟並んで聳えています。

鉄筋コンクリート製の集合住宅に密閉型とかオープン型なんて無いと思うのですが…
それに二棟を繋いでいる渡り廊下は一階部分だけですし…
非常に不安定って?



私は所謂『心霊スポット』と呼ばれる、幽霊が目撃される場所へ、
休日等を利用して訪ねて廻ることを趣味としています。

心霊スポット探検サイトを運営している天之津君が常連となった私に、
『興味があれば一緒にどう?』
と、誘ってくれた事がこの道へ入るきっかけでした。

そして、天之津君をリーダーとするチームの一員として、
現在に至るまでに、三桁を超す日本各地の心霊スポットを訪ねてまわりました。
数々の怪異と遭遇し、恐怖に心臓を鷲掴みされ、
竦み上がった身体を無理矢理動かして闇の中を逃げ回り、
流れる涙をそのままに、這々の体で帰り着いたことは数知れず…

人の目を欺き、鍵をこじ開け、扉を突破し、窓を破り、
セキュリティシステムの穴を掻い潜り、
土足で他家の床を踏みにじり、奥へ奥へと突き進む。
遊園地などのアトラクションでは決して味わうことのできない、
保障も保険も、安全装置もまるでない…
全ては自己責任、ギリギリのスリルを楽しむ心霊スポット探検に、
私は完全に、はまってしまいました。




公園まで備える広大な敷地に、8階建ての鉄筋製集合住宅が二棟、
その南側、碁盤の目みたいに道で区切られたところに、
青いトタン屋根の長屋風住宅がたくさん建っています。
ここにある建物は全て、某独立行政法人の某機構が近年廃止となって、
後任組織へ引き継がれることなく、民間へ売却されて取り壊されるのを待つ、
廃墟なのだそうです。

ある冬の週末、ある閉店後のおもちゃ屋さんに、
私達、心霊スポット探検チームの主要メンバーが集まっていました。
チームメンバーがこのお店の常連で、売上げに少なからず貢献していることから、
店長さんのご厚意で、作業室を探検の打ち合わせに使わせて頂いているのです。

今夜も、次回赴く探検場所の選定を喧々諤々と繰り広げてました。
『機動戦士ガ●ダム 逆襲の●ャア』のDVDを観ながら…



「なあ、お前等…稲荷町のあれ知ってるか?」
私が心霊スポット探検へ持っていく、東京マ●イ製電動ガン『M4A1』の、
メンテナンスをしてくれていた店長さんが顔を上げ、私達に訊ねてきました。
店長さんのいう『あれ』とは心霊スポットのことです。

商店街組合や町内会の集まりでオカルトな情報を仕入れてきて、
私達へ提供してくれるのですが…
過去に二回、ちょっと洒落にならない体験をさせていただきました。

旧河川の上に建つアパートと、旧寺院の敷地に建つ小学校…
過去に行った心霊スポットの中でも上位にランク付けされる物件です。
店長さんから『あれ』が出たならば、
今回の『あれ』についても期待大です。

どんな異常を恐怖を畏怖を怪異を神秘を体験させて貰えるのでしょうか。
次の探検場所について話し合っていた探検隊メンバーが姿勢を正し、
海兵隊訓練キャンプの先任軍曹へ対するみたいに店長さんへ向き直りました。

川を埋め立てられてアパートに祟りを為す河伯…
死に際にちょっとした未練が因で霊となり彷徨する僧侶…
その次って…ごくり…一同の生唾を飲み込む音が重なります。

「人数分持ってきたけど、コーヒー飲むかしら?」

話の出鼻を挫くように店長の奥さんがドアを開け、
トレイに紙コップをたくさん乗せて現れました。
黒髪を肩で切り揃えた、素晴らしくスタイルが良い三十代半ばの美人さんです。

過去二回の探検に同行したことがあり、お話に参加する気満々だったみたいで、
ベートーベンの『田園』をハミングしながらコーヒーの入ったカップを皆の前へ置くと、
私の隣へ椅子を持ってきて腰を下ろしました。
店長さんが露骨に舌打ちしたりしてますけど…

「どうぞ、話を続けて」

「…ん、あ〜なんだ…
 ええと、稲荷町…の外れにある…8階建ての住宅に…出るそうだ…」

にこにこ顔の奥さんに対して、店長さんは顔を曇らせ、言葉の歯切れがすこぶる悪いです。
町名の由来となった稲荷神社のすぐ脇に廃墟の住宅群がある事は私も知ってました。
あそこって幽霊、出るんですか…

「なにが出るのかしら?」

「…幽霊……の霊…女の霊だ」

「私が聞いた噂では何かすごい特徴のある幽霊さんだったみたいだけど?」

「どうだったかな…」

進退窮まった店長さんはレオンが潜伏するアパートへ警官隊を非常招集命令を出す、
ゲイリー・オールドマンみたいな顔で大声を張り上げました。




「巨乳の幽霊だよぉおおおおおおおお!!!」



10/13 01:13
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▼[1]こげ
奥さんが今まで見たことない最高の表情で微笑みました。
目が全然笑ってないんですけど…

「見に行きたいの?」

「…イエス、マム…」

あっちはジョン・ウエインこっちは誰?
店長さんは全身をガクガク震わせ、今にも凍死しそうな塩梅です。
奥さんが今度は周囲をぐるりと睥睨しますと、

「嵐の前の静けさは最高ね♪」

「え!?」

「ベートーベンは好きかな?」

探検隊男子メンバー全員が突然、椅子を蹴立てて飛び上がり、
着地と同時に額を床に擦りつける…土下座に入りました。
これが噂に名高いジャンピング土下座…

『変態でもいいです!俺達に幽霊の巨乳を見せてくださいマム!!』

声を揃えて巨乳を見たいって…どんだけ最低なんですか男子…
彼等だけで行かせたらロクな事にならないのは間違いないです。
女体に飢えたケダモノ野郎ですから。

以前、抱きついてくる巨乳の幽霊が出ると噂される道路を見に行った時など
騒ぎすぎて付近の住人からお巡りさんを呼ばれ、私まで職質を受ける羽目になりました。
道端で80年代のアイドルのコンサートにいた親衛隊風の掛け声とかしないですよ普通…

「仕方ないなぁ」

そんな訳で、私と奥さんがお目付け役となり、
寒い中を変態共を引率してこの巨大な廃墟へやってきたのでした。
徒歩で。



雲間から月が顔を現し、青白く玲瓏たる光がスポットライトの様に、
白い8階建ての威容を闇の中に浮かび上がらせています。
私の視力では眼鏡をかけていても星まで確認することはできません。
風がちょっと強いですね。
落ち葉が巻かれてアスファルトの上をカラカラと転がっていきます。

「…あと一息、諸君らの力を私に貸していただきたい!
 そして、私は父、ジオンの元に召されるであろう!!」

まだ、天之津君は通常の三倍でロリでマザコンでシスコンの人をやってました。
探検隊のメンバーはなぜか、心霊スポットでアニメや漫画のネタばかり喋ります。
特に1stガンダムネタが多いです。

「こうも近づけば四方からの攻撃は無理だなシャア!!」

「なんだ!?」

「なぜ、ララアを戦いに巻き込んだのだ、ララアは戦いをする人ではなかった!」

「ちぃ!」

ビシコーン!なんて、ガンダムネタを交わしながら
心霊スポットを根城にしている暴走族とかをボコボコにしたりします。

それはともかく、店長さんの話では目撃者の皆さんが敷地の外から、
月明りを受けてベランダに立つ女性の姿を捉えたそうです。
通りに近い方の建物で5階あたりの角部屋…

「あれかしら、5階のベランダに誰かいるみたいだけど…」

奥さんが指を差しました。まだ、建物までかなり距離があるのですが…
マサイの戦士レベルの視力でも持っているのでしょうか。
必死に目を凝らし、眼鏡を両手で摘まんでデリカットしても全然見えないです。

「私には見えないですよ〜どこですかぁ?」

突然、先頭を歩いていた店長さんが、
ニュータイプ覚醒したシャア大佐みたいなことを呟いて駆け出しました。
僅かに遅れて残りの男子も負けてなるものかと走り出します。

「シャア少佐だって、戦場の戦いで勝って出世したんだ!」

「やめろ、ジーン!」

何が彼らをこうも焚き付けるのでしょうか…

もちろん、

巨乳、幽霊の巨乳に他なりません。

10/13 01:18
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▼[2]こげ
変態です。死者の胸部にそれほどまでの興味をそそられるなど変態の極みです。

他者よりも一秒でも早く、一秒でも長く幽霊の巨乳を我が目に焼き付けんが為に。
いざ征け、つわもの、日本男児!決戦の場は目の前ぞ。

砂煙を巻き上げて去っていく後ろ姿…
彼等に対する私の好感度は最低にまで落ち込みました。





「すげえ、手摺りに乗せてんぞ…」

「でかい…なんてもんじゃ…ない…」

「ななな、なんたる!なんたる!!」

「大きい…すごく大きい」

「あのおっぱいこそ、歴史を変える…」

「巨乳が肉眼で見えるぞ!もういい、照射!!」

「あは、大きい! 彗星かなぁ、違う、違うなぁ…
 彗星ならバアーッって動くもんなぁ…暑っ苦しいなぁここ。」

私と奥さんが追いついた時、男性達は鑑賞モードに入って、
『ニ●ニ●動画』みたいに激しく言葉の弾幕を張りまくってました。

きらきらと目を輝かせて建物の一点を、5階の角部屋を凝視しています。
5対の熱視線を受け、手摺りに手を掛け、地上を見つめる女性の姿…

両手の間に巨大な球体が二つ…陰影深く、前に向かって大きく飛び出しています。
青い衣類…もしくは下着でしょうか、
胸の形がはっきりと分かるものを身に着けているみたいです。

圧倒的…ひたすら圧倒的な威容が、男子の視線を釘付けにしてました。
予測をはるかに上回り、芽生えた嫉妬、粉々になった矜持…
私は巨大過ぎるアレと自分の胸と交互に見比べてしまいます。

女子高時代から男女問わずに大きい大きいと持て囃され、
ただ重くて邪魔なだけと韜晦し、人の視線が集まるのを恐れて水着になることを厭い、
混雑する電車やバスに乗れば痴漢に遭い、それを語れば自慢かよと嫌味を言われ、
身体の線が出ない服を好んで身に着け、目立たぬ様に隠す様に毎日を送り、
憧憬と侮蔑、羨望と嫌悪の視線に当てられてきた私の半生…

5階のベランダから堂々と胸を晒すような輩に、
同病相憐れむという感情が浮かぶことなど一切ありません!

「あれは胸じゃないわ、
 骨格と照らし合わせてみても…あれが人間の胸であるはずがないわ」

静かに見上げていた奥さんが凛とした声で偽乳と断言しました。
最初は信じられませんでしたが、
よく見れば確かに肩幅と胸の位置にかなりのズレがあります。

まるで作画崩壊したアニメみたいに。

店長さん達はまだ信じられないらしく呆然と女性を見つめています。

「わからん…俺には本物としか…」

「あなた達は信じたがっているのよ、
 アレが本物であって欲しいという願望が目を曇らせているんだわ」

その時でした、
女性が大きくベランダから身を乗り出したかと思うと、
左側の胸が手摺を離れ…

まるで一秒が引き延ばされたみたいにゆっくりと降下を開始したのです。
黒い尾を曳いて…

ドン、と近くで重く硬いものが落ちた音がしました。

常緑の植え込みが風に揺れているのが見えます。

その手前、枯れた芝生の上に何か落ちてました。

青い帽子?白い球体には目鼻があり、
動物プリントのついた可愛い服…小さな胴体と手足…

「あれは巨乳なんかじゃない!赤ん坊だ!」

「両手に抱えて…また落とす気だ!」

仰向けで倒れる赤ちゃんはぴくりとも動きません。
そこへ、私の視界を妨げる大きなものが降ってきました。

たて続けに二回、地面へ激突する重い音。
V字状に空へ向けて立つ両脚、肩から落下して…頭から地面に刺さっている様に見えます。
胸まで捲れた青いワンピースの裾…下腹に走る帝王切開の赤い傷跡…

白い足が、ガクガクと大きく震えていました。
頭部が真横を向いてしまっています。
足に力が入らず、腰を抜かして私はその場へ座り込んでしまいました。
私を見つめる眼(まなこ)、
引き結ばれた唇の端が吊り上がって笑っているかの様です。
その脇に…うつ伏せで倒れる…もうひとりの赤ちゃん。

「今から四…五年前に心中事件があった。
 双子の赤ん坊をベランダから投げ落とし…自分も飛び降りた。
 しかし、母親は意識不明の重体ながらも…死んではいなかったはずだ…」

抑揚のない店長さんの声…
ゆっくりと仰向けに倒れる女性…ぴくりとも動かない小さなふたつの身体…
言葉ひとつ出せず見つめる私…
しばらくすると、母子の姿は地面に溶けて消えていくように見えなくなりました。

「あの女、また…ベランダにいるぞ!?」

天之津君の叫ぶ声が遠く感じます。

そして、また三度…
さっきよりも鮮明になって聞こえる、
地面に激突して肉が拉げ、骨が砕かれる音…

「繰り返しているんだ…
 落下し…あげる断末魔をずっと…
 救われる日が来るまで何度も何度も…」





(おわり)


10/13 01:24
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▼[3]採点おやぢ
61点
10/14 00:08
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▼[4]怖い名無し
男性
怖いしグロい
10/15 19:45
[N01E]
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▼[5]怖い名無し
胸より尻だな。
10/25 12:05
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▼[6]怖い名無し
男性
こげさんの新作は此処でしか読めないのかや?
12/26 11:21
[N01E]
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