MH小説・日記
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◆[16]無名
───鳥達は叫ぶように歌い続ける。───
その眼下に灼熱に染まる殺戮の宴を据えて。
空はもう漆黒だというのにそこは夕焼けそのもののように燃えていた。
鳥達は叫ぶように歌い続ける。
あぁ、素晴らしい!
今夜はスポットライトを当てられてさらにはコーラスまで付いてるじゃないか!
だから、鳥達は歌い続ける。
悲鳴を美しいコーラスに変えるように。
この惨劇の舞台を彩るように歌い続けた。
「ああぁぁぁっ!!!!」
男は血の涙を流しながら吠えた。
あらゆるものが一晩にして全て奪われていく。
家族、友人、想い出の詰められた村。
その全てが彼岸花のような炎に包まれて消えていく。
男は自らの行ってきたことを振り返った。
おかしい。
自分はこのようなことが許される人間ではないはずだ。
善を是として悪を非として生きてきたのに何故?
男は問い掛ける。
何故?何故?何故?
何故?何故?何故?
何 故 ! ?
何故、悪に報いがない?
あれほどの悪業を行っているやつらに何故、報いがない?
『悪いことをすれば必ず自分に返ってくるんだよ、神様が見張っているからね』
遠い昔、祖母に聞いた言葉を思い出した。
ならば、何故、やつらに裁きが起きない!?
何故、神はあの様な行いを見逃している!?
村の中で虐殺を行っているやつらに何故、報復がない!?
神はいないのか!?
この世に……正義はないのか!?
……違う。
正義がないんじゃない。
『だから、お前は自分が善しとすることだけを行いなさい』
あぁ、元より考える必要などなかった。
正義がなければ正義になれば良い。
やつらに裁きを下すものがいないのなら自分で下せば良い。
なんだ、至ってシンプルな解答じゃないか。
「ははっ、ははははっ」
そうだ、正義がないというのならなってやる。
お前達に奪ったものを返せとは言わない。
だから、代わりにお前達からありとあらゆる全てを奪ってやる。
アヴェンジャーは高らかに産声を上げて嗤う。
「俺が正義だ、正義なんだ」
赤く燃える悪夢の中で、失滅の世界でただ一つ産まれた存在だった。
全てを失った復讐者の誕生。
───鳥達は叫ぶように歌い続ける。───
ただ一つ、産まれたものを祝うように……。
10/23 17:03
[N08A3]
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